ネイリストのスマホ代は、全額ではなく「仕事で使っている分」だけを経費にします。国税庁が示している基準は割合の大きさではなく、その分をはっきり区分して説明できるかどうかです。
お客様の予約連絡、施術写真の撮影、SNSの投稿、材料のネット注文。ネイリストの仕事は、そのほとんどがスマホの中で回っています。
それなのに「スマホ代は経費にしていない」という方は、とても多いです。理由を聞くと「プライベートでも使うから、なんとなく怖くて」と返ってきます。
ここは、正しいやり方を知れば毎年きちんと経費にできる部分です。この記事では、スマホ代や予約管理アプリの料金をどこまで経費にできるのか、割合はどう決めるのかを、ネイリストの働き方にあわせて説明します。
スマホ代は「家事関連費」。仕事で使った分だけが経費です
まず言葉の整理からです。仕事にもプライベートにも関わる支払いのことを、税金の世界では「家事関連費」と呼びます。
国税庁のタックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」では、家事関連費について次のように説明されています。
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
国税庁「No.2210 必要経費の知識」
難しく書かれていますが、言いたいことは2つだけです。
- プライベートの分まで経費にすることはできない
- 仕事の分をはっきり区分できるなら、その区分できた金額は経費にできる
この「区分する」作業のことを、一般に家事按分(かじあんぶん)と呼びます。スマホ代のほかに、ホームサロン(自宅サロン)の家賃や電気代、水道代なども同じ考え方で処理します。
たとえば毎月のスマホ代が7,000円(税抜)で、そのうち6割を仕事で使っているとします。1か月の経費は4,200円、1年では50,400円です。決して小さな金額ではありません。
「仕事で5割を超えないと経費にできない」わけではありません
ここは誤解がとても多いところです。「仕事で半分以上使っていないと経費にできない」と聞いたことがある方もいるかもしれません。
国税庁の所得税基本通達45-2は、次のように定めています。
その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。
国税庁 所得税基本通達45-2
後半の「ただし」以降が大事です。仕事で使っている割合が半分以下でも、その部分をはっきり区分できるのであれば経費に入れてよい、と書かれています。
週2日だけホームサロンを開けている方、副業としてネイルをしている方も、堂々と按分して大丈夫です。大切なのは割合の大きさではなく、その割合にした理由を説明できることです。
なお、割合の決め方について同じく通達45-1では、業務の内容、経費の内容、家族や使用人の構成、店舗と併用している家屋などの利用状況等を総合勘案して判定する、とされています。ひとつの数式で決まるものではなく、実態にあわせて考えるものだと理解しておいてください。
ネイリストのスマホ代、割合はどう決める?
法律で「ネイリストは何割」と決まっているわけではありません。自分の使い方から、説明できる数字を作ります。よく使われる決め方は次の3つです。
1. 使う時間で決める
1日のうち、スマホを仕事で触っている時間を書き出す方法です。予約の返信、施術写真の撮影と加工、SNS投稿、材料の発注、お客様への連絡。これらを合計して、1日の使用時間全体と比べます。
「仕事で1日3時間、全体で6時間だから5割」といった形です。1週間だけスマホの使用時間の記録を取ってみると、根拠のある数字が作れます。
2. 営業日数で決める
週に何日サロンに立っているかで決める方法です。週4日営業なら「4日÷7日=約57%」といった計算になります。
シンプルで説明しやすいのが利点です。ただし、休みの日にも予約の返信やSNS投稿をしているなら、その分は反映されない点に注意してください。
3. 明細から決める
通話明細やデータ通信量の内訳から決める方法です。仕事の電話が全体の何件かを数えたり、予約アプリやSNSアプリのデータ使用量を見たりします。
手間はかかりますが、いちばん根拠がはっきりします。3つのうちどれを選んでも構いません。自分が説明しやすいものを選んでください。
働き方別の考え方
| 働き方 | スマホの主な仕事用途 | 割合を考えるヒント |
|---|---|---|
| サロンで業務委託 | サロンとの連絡、シフト調整、指名のお客様とのやりとり、施術写真の投稿 | 予約管理をサロンがしている場合は用途が限られる。出勤日数をもとに考える |
| シェアサロン | 予約受付、キャッシュレス決済、席の予約、材料の発注 | 予約から会計までスマホで完結することが多く、割合は高くなりやすい |
| ホームサロン(自宅サロン) | 予約受付、SNS集客、お客様への道案内、写真撮影 | 営業していない日も集客投稿をしているなら、その時間も含めて考える |
| 出張ネイル | 予約受付、地図・乗り換え検索、当日の連絡、決済 | 移動中の利用が多い。地図アプリの使用も仕事用途に含めて考える |
どの働き方でも共通して大切なのは、決めた割合と、その理由を書いたメモを残しておくことです。「2026年1月、週4日営業のため通信費は50%で計上」という一行で構いません。
国税庁の説明にも「取引の記録などに基づいて」とあります。頭の中で決めただけでは記録になりません。ノートでもスマホのメモでも、形に残しておいてください。
スマホまわりで見落としやすい経費
通信費というと月々の携帯料金だけを思い浮かべがちですが、ネイリストの場合はほかにもあります。
| 支払いの内容 | 科目の例 | 按分の要否 |
|---|---|---|
| 毎月の携帯電話料金 | 通信費 | 必要(仕事分のみ) |
| 自宅のインターネット回線 | 通信費 | 必要(仕事分のみ) |
| 予約管理アプリの月額利用料 | 通信費または支払手数料 | 仕事専用なら全額 |
| キャッシュレス決済アプリの手数料 | 支払手数料 | 全額 |
| 写真加工アプリ・画像素材の月額 | 通信費または消耗品費 | 仕事専用なら全額 |
| クラウドストレージ(施術写真の保管) | 通信費 | 私物写真も入れているなら按分 |
| SNS広告の出稿費 | 広告宣伝費 | 全額 |
| お客様への連絡用の切手・はがき | 通信費 | 全額 |
科目名は法律で細かく決められているものではありません。大切なのは、同じ内容の支払いを毎年同じ科目にそろえることです。「予約アプリは通信費」と一度決めたら、翌年も同じにしてください。
ジェルやポリッシュ、ネイルマシンなど、通信費以外の経費についてはネイリストの経費一覧にまとめています。あわせてご覧ください。
スマホ本体を買い替えたときの扱い
毎月の料金とは別に、本体の代金があります。ここは金額によって扱いが変わります。
国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」では、使用可能期間が1年未満のもの、または取得価額が10万円未満のものは、その全額を使い始めた年の必要経費にすると説明されています。
また、取得価額が10万円以上20万円未満のものについては、一定の要件のもとで、まとめた取得価額の合計額の3分の1にあたる金額を、使い始めた年から3年間の各年に必要経費に算入できるとされています。
- 10万円未満(税抜)……買った年に全額を経費に。仕事とプライベートで兼用なら按分します
- 10万円以上20万円未満……3年に分けて経費にする方法が選べます
- 20万円以上……原則として耐用年数にわたって少しずつ経費にします
なお、青色申告をしている方には、一定額未満のものを買った年に全額経費にできる特例もあります。ただし対象になる金額や適用できる期限は改正されることがあるため、最新の内容は国税庁のサイトでご確認ください。
分割払いで買った場合も、まずは本体の代金全体で上の判定をします。所得税基本通達37-28では、業務用の資産を分割払いの契約で購入した場合において、購入代価と分割期間中の利息などにあたる金額が契約で明らかに区分されているときは、その利息などにあたる金額は分割期間中の各年分の必要経費に算入する、とされています。
つまり、本体代金と分割手数料は別々に考える、ということです。契約書や購入明細は捨てずに保管しておいてください。
今日からできる5つの手順
やることは多くありません。この5つだけです。
- 1年分の明細をそろえる……携帯会社のアプリやマイページから、1月から12月までの請求明細をダウンロードします。紙の明細が届かない契約が増えているので、年内にまとめて保存しておくと安心です
- 割合を決める……使う時間、営業日数、明細のいずれかを使って数字を出します
- 決めた理由をメモに残す……日付、決めた割合、その理由の3点を1行で書いておきます
- 帳簿に按分後の金額を書く……支払った全額を記録したうえで、年末に仕事分だけを集計する方法が一般的です
- 翌年も同じ基準を使う……働き方が変わっていないのに割合だけが毎年動くと、説明が難しくなります
9月は、1年の折り返しを過ぎて帳簿を整えるのにちょうどいい時期です。今から割合を決めておけば、申告の時期に慌てずに済みます。
やってはいけない3つのこと
- 全額を経費にする……プライベートでも使っているスマホを100%経費にすると、家事関連費のルールから外れます
- 根拠なく高い割合にする……「9割」と書くこと自体は自由ですが、なぜ9割なのかを聞かれたときに答えられなければ意味がありません
- 怖いからゼロにする……これがいちばんもったいない選択です。年間で数万円の経費を捨てていることになります
ネイリストの仕事は、スマホなしでは成り立ちません。使っている事実があるなら、その分を正しく計上するのが本来の姿です。
よくあるご質問
仕事用とプライベート用でスマホを2台に分けました。仕事用は全額経費にできますか?
仕事だけに使っている端末や回線であれば、家事関連費にはあたらないため、按分せずに計上する考え方になります。ただし「仕事用」と呼んでいても、実際には私用の連絡や動画視聴に使っているなら按分が必要です。2台に分けたときは、私用の連絡先を仕事用に登録しない、私用アプリを入れないなど、使い分けが説明できる状態にしておいてください。
一度決めた割合は、毎年同じにしないといけませんか?
いいえ、実態が変われば見直して構いません。国税庁の所得税基本通達45-1では、業務の内容や経費の内容、資産の利用状況等を総合勘案して判定するとされています。週2日営業から週5日営業に増えた、業務委託からホームサロンに変わったなど、働き方が変わった年は割合も見直すのが自然です。変えた年は、変えた理由もあわせてメモに残しておいてください。
家賃や電気代も、スマホ代と同じ考え方でいいですか?
はい、同じ家事関連費です。国税庁は家事関連費の例として、交際費、接待費、地代、家賃、水道光熱費などを挙げています。ホームサロン(自宅サロン)の家賃であれば、施術に使っている部屋の面積や使用時間をもとに割合を出します。スマホ代とは根拠にする数字が違うだけで、「仕事の分を明らかに区分する」という考え方は同じです。
まとめ
- スマホ代は家事関連費。仕事で使っている分を明らかに区分できれば経費にできます
- 仕事の割合が50%以下でも、区分できるなら計上して差し支えないとされています
- 割合は「使う時間」「営業日数」「明細」のいずれかで決め、理由をメモに残します
- 予約管理アプリ、クラウド、SNS広告も忘れずに拾います
- 本体代金は10万円未満なら買った年に全額。それ以上は分けて経費にします
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※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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