ホームサロンの開業資金が自己資金だけで足りないとき、ネイリストにも使えるのが日本政策金融公庫の創業融資です。
「そろそろ自分のサロンを持ちたい」と思ったとき、最初にぶつかるのがお金の話です。いくら用意すればいいのか、足りない分は借りられるのか、借りたお金は確定申告でどう扱うのか。どれも調べにくいところです。
この記事では、開業資金の考え方、公庫の創業融資の中身、借りたお金と税金の関係を、公的な情報だけで整理します。
開業資金は「設備のお金」と「回すお金」に分けて考えます
開業資金をひとつの数字で考えると、必ずどこかで足りなくなります。まず2つに分けてください。
ひとつは設備資金。最初に一度だけ払う、モノを買うお金です。もうひとつは運転資金。開業したあと毎月出ていくお金です。ネイリストの場合、次のように分かれます。
| 種類 | ネイリストの場合の具体例 |
|---|---|
| 設備資金 (最初に一度) | ネイルテーブル、施術用の椅子とお客様用の椅子、ジェルライト、ネイルマシン、集塵機、器具の消毒用の機器、収納棚、鏡や照明、内装工事、看板 |
| 運転資金 (毎月かかる) | ジェル・ポリッシュ・アセトン・ファイルなどの材料の仕入れ、ネイルチップやパーツ、サロン部分の家賃や光熱費、予約管理アプリやスマホの通信費、広告費、消耗品 |
見落としやすいのが、開業してすぐは売上が読めないことです。指名のお客様がついてくるとしても、初月から満席になるとは限りません。設備をそろえて残高がゼロになると、材料が買えなくなります。設備資金とは別に、数か月分の運転資金を残しておくのが安全です。
あわせて、自分の生活費も別枠で確保しておきましょう。融資の対象になるのは事業のためのお金なので、家賃や食費といった生活費は自分の貯金でまわす前提になります。
開業前に払ったお金も、あとから経費にできます
「まだ開業していないから、レシートは捨てていい」と思ってしまう方がいます。これは損です。開業前に払った準備のお金は開業費としてまとめておき、あとから必要経費にできます。
国税庁の質疑応答事例では、開業費は繰延資産にあたり、その償却は60か月の均等償却または任意償却のいずれかによることとされています。任意償却には下限がないため、支出した年に全額を償却してもよく、まったく償却しなくてもよいと説明されています。さらに、支出から60か月を過ぎたあとでも、未償却の残りをいつでも必要経費に入れられるとされています。
つまり、赤字の年は使わずに置いておき、利益が出た年にまとめて経費にするという調整ができます。だからこそ、開業前のレシートは1枚も捨てないでください。何にどれだけ使ったかがわからないと、この扱いが使えません。
なお、開業したあとの日々の支出については、ネイリストの経費一覧で項目ごとに整理しています。
開業資金はいくら必要?公庫の調査からわかること

日本政策金融公庫の総合研究所は、毎年「新規開業実態調査」を公表しています。2025年8月に行われた2025年度の調査では、公庫が融資した開業後1年以内の企業のうち2,165社が回答しています。
| 項目 | 2025年度調査の数字 |
|---|---|
| 開業費用の平均値 | 975万円 |
| 開業費用の中央値 | 600万円 |
| 250万円未満だった割合 | 20.1% |
| 250万~500万円未満だった割合 | 21.7% |
| 資金調達額の平均 | 1,219万円 |
| うち金融機関等からの借り入れ | 平均827万円(67.9%) |
| うち自己資金 | 平均279万円(22.9%) |
平均975万円と聞くと驚くかもしれません。ただしこれは全業種をまとめた数字です。飲食店や工場のように設備の大きい業種も含まれています。実際には「250万円未満」と「250万~500万円未満」で4割以上を占めていて、調査でも開業費用は長期的にみて少額化の傾向にあると説明されています。
自宅の一室で始めるホームサロンなら、内装工事も店舗の家賃もかかりません。設備の中心はネイルテーブル・ライト・マシン・集塵機と材料の初期在庫になるので、上の平均よりずっと小さくおさまることも珍しくありません。
大事なのは、平均に自分をあてはめないことです。ネイルサロンだけの開業費用は公表されていません。次のように自分の見積りを1行ずつ作るほうが確実です。
- 買うものを「品名×数量×単価」で書き出す(ライト1台、マシン1台、テーブル1台のように)
- すでに持っている道具は「自分で用意する分」として引く
- 毎月出ていくお金を合計し、その3か月分から6か月分を上乗せする
- 合計から自己資金を引いた差額が、借りたい金額になる
この「品名×数量×単価」で書く形は、あとで公庫に出す創業計画書の書き方とそのまま同じです。最初からこの形でメモしておくと、二度手間になりません。
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」とは
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、これから事業を始める人向けの融資制度を持っています。開業したばかりで実績がない人でも申し込めるのが、民間の銀行と大きく違う点です。
創業時の中心になる制度が新規開業・スタートアップ支援資金です。公庫のページに書かれている条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使える人 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
| お金の使いみち | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間(設備資金) | 20年以内(うち据置期間5年以内) |
| 返済期間(運転資金) | 10年以内(うち据置期間5年以内) |
| 利率 | 基準利率。一定の要件に当てはまる方は特別利率 |
| 担保・保証人 | 希望を聞きながら相談 |
「7,200万円」は上限で、この額が借りられるという意味ではありません。ネイリストが相談するのは、もっと小さい金額です。
注目したいのは据置期間です。元金の返済を先に延ばして、その間は利息の支払いだけにできる期間です。開業直後はお客様がまだ少ないので、ここを使えると資金繰りが楽になります。ただし元金は減らないため、返済の総額が軽くなるわけではありません。
女性のネイリストは特別利率の対象になりやすいです
この制度では、次のような方が必要とする資金には基準利率より低い特別利率が使われると書かれています(原則として土地にかかる資金を除く)。
- 女性の方、35歳未満または55歳以上の方
- 創業塾や創業セミナーなど(産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業)を受け、認定市区町村が発行する証明書を取得した方
- 認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けて、自ら事業計画書を策定した方など
ネイリストは女性が多い仕事なので、ここに当てはまる方がかなりいます。年齢や性別で自動的に決まる部分なので、確認しないまま基準利率で借りるのはもったいないところです。
市区町村の創業セミナーも狙い目です。お住まいの自治体が認定特定創業支援等事業をやっていれば、受講して証明書をもらうだけで対象になり得ます。開業を考え始めた段階で、自治体のサイトを一度見ておくとよいでしょう。
さらに公庫の創業融資の案内には、創業支援貸付利率特例制度という仕組みも載っています。新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方が対象で、この制度の適用により利率が0.65%引き下げとなります(雇用の拡大を図る場合は0.9%)。
ただし利率の具体的な数字は、この記事には書きません。金利は変わるためです。基準利率も特別利率も、公庫の「金利情報」のページで申込時点の数字を確認してください。
自己資金・担保・期間について公庫が説明していること
公庫の創業支援のQ&Aには、心配になりやすい点がそのまま書かれています。
- 自己資金:「自己資金は重要な要素のひとつですが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要になります」とされ、公庫の調査では創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度と示されています
- 担保・保証人:創業期の方は、原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用できると書かれています
- 期間:申込から融資までは「平均的には、3週間程度」とされています(条件によっては時間がかかる場合もあります)
- 個人か法人か:個人と法人とで大きな違いは特にないとされ、個人事業主のまま申し込めます
3週間程度というのは、あくまで申込から先の話です。物件を借りる予定なら、契約や工事の日程から逆算して、余裕をもって動き始めてください。
また制度のページには、創業計画書の提出をして事業計画の内容を確認する、と書かれています。計画書は必須と考えてください。公庫は美容業向けの「創業の手引+(美容版)」というパンフレットも公開しているので、書き方の参考になります。
借りたお金と税金の関係|返済は経費になりません

借りたお金のまわりには、勘違いしやすい点が3つあります。ここを間違えると税金を計算し損ねます。
| お金の動き | 確定申告での扱い |
|---|---|
| 公庫からお金が振り込まれた | 売上ではありません。返す義務のあるお金なので、収入には入れません |
| 毎月の返済のうち元本の部分 | 必要経費になりません |
| 毎月の返済のうち利息の部分 | 事業のための借入金の利息なので、必要経費になります |
国税庁の「必要経費の知識」には、業務用資産の購入のための借入金など、業務のための借入金の利息は必要経費になると書かれています。一方で、必要経費にならないものとして借入金の元本が挙げられています。
返済額まるごとを経費にしてしまうと、経費を多く見せた申告になります。毎月の返済のうち、いくらが利息だったのかを分けて記録してください。公庫の返済予定表に元本と利息が分かれて書かれているので、それを見れば計算できます。
もうひとつ注意したいのが、借りたお金で買った設備です。ジェルライトやネイルマシンのように1つの値段が大きいものは、買った年に全額を経費にできず、何年かに分けて経費にしていく扱いになることがあります。借入額と経費になる金額は一致しません。
開業までにやることチェックリスト
上から順番に進めてください。
1.設備と運転資金を1行ずつ書き出す
「ライト1台」「マシン1台」のように、品名と数量と単価で書きます。合計から自己資金を引いた差額が、相談する金額の出発点です。
2.ネイル専用の口座を作る
売上の入金、材料の支払い、融資の入金と返済を1つの口座にまとめます。生活費の口座と混ざっていると、あとで帳簿を作るのが大変になります。
3.開業前のレシートを全部とっておく
ジェルの仕入れ、ライトの購入、内装の見積り、名刺や看板の制作費まで、開業費になり得ます。月ごとに封筒に入れて、そのまま送るだけの状態にしておくと楽です。
4.開業届を出す
正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」です。国税庁のページでは、提出時期は事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとされています。提出先は納税地を所轄する税務署長です。e-Taxでも、書面の持参や郵送でも提出できます。
5.青色申告承認申請書を出す
こちらは期限が厳しいので気をつけてください。原則は青色申告をしようとする年の3月15日までですが、その年の1月16日以後に新しく開業した場合は、業務を開始した日から2か月以内です。1日でも遅れると、その年は青色申告ができません。
青色申告にすると、複式簿記で記帳して期限内に申告すれば最高55万円、さらに電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告をしていれば最高65万円の青色申告特別控除が受けられます。赤字を翌年以後3年間繰り越せる点も、開業初年度には大きな意味があります。
6.創業計画書を書く
公庫のサイトから書式をダウンロードできます。ネイリストなら、席数、1日に何人施術できるか、客単価、月に何日働くかを掛け合わせて売上の見通しを立てます。指名のお客様が何人ついてきそうかも、根拠として書ける材料です。
7.自治体の創業セミナーを確認する
認定特定創業支援等事業にあたるセミナーを受けて証明書をもらえば、特別利率の対象になり得ます。開業してからでは間に合わないので、早めに調べておいてください。
「借りられるか」より「返せるか」で考えます
創業融資は、審査に通ることがゴールではありません。借りた翌月から返済が始まります。だから見積りの段階で、毎月いくらまでなら無理なく返せるかを先に決めておくことが大切です。
そのためには、月にいくら売れて、材料や家賃にいくら出ていくのかを自分の数字でつかんでおく必要があります。開業前の見積りと、開業後の帳簿は地続きです。最初から記録の形を作っておけば、そのまま確定申告に使えます。
よくある質問
自己資金がほとんどなくても、公庫に相談してよいのでしょうか?
相談そのものはできます。公庫の創業支援のQ&Aでは「自己資金は重要な要素のひとつですが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要になります」と説明されています。同時に、公庫の調査では創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度とも示されています。自己資金が少ないほど、返せる見通しを数字で説明する力が問われる、と考えておくとよいでしょう。
公庫から振り込まれたお金は、確定申告で売上になりますか?
なりません。借入金は返す義務のあるお金なので、売上や収入には入れません。返済についても、元本の部分は必要経費になりません。国税庁の「必要経費の知識」では、必要経費にならないものとして借入金の元本が挙げられ、業務のための借入金の利息は必要経費になるとされています。つまり経費にできるのは利息の部分だけです。
開業する前に買ったジェルやライトも経費にできますか?
開業前の準備にかかった支出は開業費としてまとめられます。国税庁の質疑応答事例では、開業費の償却は60か月の均等償却または任意償却のいずれかによることとされ、任意償却には下限がないため支出した年に全額を償却してもよく、まったく償却しなくてもよいと説明されています。ただしライトやマシンのように1つの値段が大きいものは資産として別に扱うことがあるため、金額のわかるレシートを残しておいてください。
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