国民年金と国民健康保険の保険料は、ネイリストの「経費」にはできません。でも、払った分は「所得控除」として全額が税金の計算から差し引けます。落とし方を間違えると、税金を余分に払うことになります。
サロン業務委託やシェアサロン、ホームサロンで働くネイリストの方から、いちばんよく届く質問のひとつです。「毎月の国民年金と国保、けっこう痛いんですけど、これって経費に入れていいんですか?」。
結論から言うと、答えは「経費にはできない。でも別のところで全額引ける」です。この記事では、その仕組みと、確定申告で損をしないための具体的な手順をまとめます。2026年(令和8年度)の金額もあわせて確認しておきましょう。
結論:経費にはならず「所得控除」になります
まず、言葉の整理からです。ここがわかると、あとの話がすべてつながります。
経費とは、ネイルの仕事をするために使ったお金のことです。ジェルやポリッシュの材料費、ネイルマシンやUVライト、筆やニッパー、お客様にお出しするお茶菓子。これらは売上を得るために直接かかっているので、経費になります。
一方で、国民年金や国民健康保険は「あなた個人の暮らしのための支払い」です。ネイルの仕事をしていなくても、日本に住んでいれば加入します。国税庁も、生活のための支出(家事上の経費)は必要経費に算入できないとしています。だから経費欄には入りません。
ところが、ここで終わりではありません。国税庁の「社会保険料控除」というルールでは、国民年金保険料、国民健康保険料、介護保険料などについて、その年に実際に支払った金額の全額を所得から差し引けると定められています。上限はありません。
つまり、置く場所が「経費」ではなく「所得控除」というだけで、税金が減る効果はしっかりあるということです。
| 支払ったもの | 経費になる? | どこで引く? |
|---|---|---|
| ジェル・ポリッシュ・パーツ | なる | 経費(材料費など) |
| ネイルマシン・UVライト・集塵機 | なる | 経費(金額により減価償却) |
| 国民年金保険料 | ならない | 社会保険料控除 |
| 国民健康保険料 | ならない | 社会保険料控除 |
| 介護保険料(40歳以上) | ならない | 社会保険料控除 |
| 所得税・住民税 | ならない | どこでも引けない |
ネイリストの経費になるもの・ならないものの全体像は、ネイリストの経費一覧でまとめています。あわせて確認してみてください。
帳簿では「事業主貸」で処理します

では、実際の帳簿ではどう書けばいいのでしょうか。
仕事用の口座から国民年金や国保が引き落とされた場合、その支払いは「事業主貸」という項目で記録するのが一般的です。「事業のお金を、事業主である自分が私用で持ち出した」という意味の項目です。
会計ソフトを使っているなら、勘定科目を選ぶ画面で「事業主貸」を選ぶだけです。うっかり「保険料」や「租税公課」にしてしまうと、経費が多すぎる申告になってしまいます。ここは間違えやすいポイントです。
もし普段づかいのプライベート口座から引き落としているなら、そもそも帳簿に書く必要はありません。事業のお金が動いていないからです。ただし、確定申告のときに支払った合計額が必要になるので、通知書や領収証書は必ず保管しておきましょう。
「経費にならない」と聞くと損した気がするけれど
ホームサロンを開いているネイリストのAさんを例にしてみます。
- 1年間の売上(施術料金の合計):420万円
- 経費(ジェル・パーツ・家賃按分・光熱費按分など):150万円
- 差し引きの利益(事業所得):270万円
税金は、この270万円にそのままかかるわけではありません。ここからさらに、社会保険料控除や基礎控除などの「所得控除」を引いた金額に対して計算されます。
Aさんが1年間に国民年金と国民健康保険を合計50万円払っていたなら、その50万円がまるごと引けます。経費に入れた場合と、所得控除に入れた場合とで、最終的に税金の計算のもとになる金額は変わりません。
だから「経費にならない=損」ではないのです。大事なのは、控除の欄に書き忘れないこと。書き忘れると、その分だけ本当に税金が高くなります。
2026年(令和8年度)の金額と、押さえておきたい仕組み
国民年金保険料は月額17,920円
日本年金機構によると、令和8年度(2026年度)の国民年金保険料は1か月あたり17,920円です。納付期限は、納付対象月の翌月末日です。末日が土日祝や年末年始にあたるときは、翌月最初の金融機関営業日になります。
納付方法は、納付書、口座振替、クレジットカード、スマートフォンアプリ、ねんきんネットを使った納付の5つ。いずれの方法でも手数料はかかりません。
また、月額400円の付加保険料を上乗せして納めると、将来の老齢基礎年金の額を増やせます。厚生年金のないフリーランスのネイリストにとっては、覚えておいて損のない制度です。
まとめて前払いすると割引になります
国民年金は、まとめて前払い(前納)すると割引が適用されます。日本年金機構は、口座振替がもっとも割引が大きいと案内しています。売上に波のあるネイリストなら、繁忙期のうちにまとめて納めておくという使い方もできます。
ここで税金の話がひとつ。2年分をまとめて前納した場合の社会保険料控除は、国税庁が2つの方法を認めています。
- 納めた年に、2年分の全額をまとめて控除する
- 各年分の保険料に相当する額を、それぞれの年で控除する
どちらを選ぶかは自分で決められます。今年たまたま売上が大きく伸びたネイリストなら、前者を選んで今年の控除を厚くする、という判断もありえます。
国民健康保険料は市区町村ごとに違います
国民健康保険料は、国民年金のように全国一律ではありません。計算方法や料率は市区町村ごとに決められているため、同じ所得でも住む場所で金額が変わります。
正確な金額は、市区町村から届く通知書か、お住まいの自治体のサイトでご確認ください。この記事で「だいたいいくら」と断定できないのは、そのためです。
なお、税金の扱いはシンプルです。市区町村がいくらで計算したとしても、実際にあなたが払った金額の全額が社会保険料控除の対象になります。
払えなかった年金は、あとから納められます
独立したばかりで収入が不安定な時期に、国民年金の免除や納付猶予を受けたことのあるネイリストもいると思います。
免除や納付猶予の承認を受けた期間の保険料は、日本年金機構によると、追納が承認された月の前10年以内であれば、あとから納める(追納する)ことができます。ただし、免除や猶予を受けた期間の翌年度から数えて3年度目以降に追納する場合は、当時の保険料額に加算額が上乗せされます。
そして大事なのが、この追納した保険料も社会保険料控除の対象になるという点です。指名が増えて売上が伸びた年に、過去の免除期間をまとめて追納する。将来の年金も増えて、その年の税金も減る。ネイリストの働き方に合った使い方ができます。
家族の分を払ったなら、あなたの控除にできます
意外と知られていないのがこれです。国税庁は、自分と生計を一にする配偶者やその他の親族が負担すべき社会保険料を自分が支払った場合、その支払った金額について所得控除を受けられるとしています。
たとえば、同居している学生のお子さんの国民年金保険料を、ネイリストであるあなたの口座から払っている場合。その分もあなたの社会保険料控除に含められます。家族の分の納付書や領収証書も、まとめて取っておきましょう。
確定申告でやること・チェックリスト

ここまでの内容を、実際の作業に落とし込みます。順番にチェックしてみてください。
1. 控除証明書を保管する
国民年金保険料と国民年金基金の掛金については、国税庁が、支払った金額を証明する書類を確定申告書に添付するか、提出の際に提示する必要があるとしています。この証明書は、日本年金機構から届く「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」です。
届く時期の目安は、その年の1月1日から9月30日までに納付した方の場合、書面は10月下旬から11月上旬にかけて。10月1日から12月31日までに納付した方には、翌年2月上旬ごろに送られます(年により日付は前後します)。
サロンの荷物にまぎれて行方不明になりがちな封筒です。届いたらすぐ、確定申告用のクリアファイルへ入れてしまうのがおすすめです。
2. 国民健康保険は1年分を集計する
国民健康保険料について、国税庁が添付や提示を求めているという記載はありません。とはいえ、金額は自分で正しく集計する必要があります。
1月から12月までに実際に払った金額を合計します。市区町村から納付済額のお知らせが届く地域もあるので、確認してみてください。口座振替なら通帳の記録でもたどれます。
ポイントは「その年に実際に払った金額」であること。前の年の分を今年まとめて払ったなら、それは今年の控除になります。逆に、今年の分を滞納したままなら、今年の控除には入れられません。
3. 帳簿では事業主貸にする
仕事用口座からの引き落としは「事業主貸」。経費の科目に入れない。これだけです。
4. 申告書の社会保険料控除欄に書く
確定申告書には、社会保険料控除を書く欄があります。国民年金と国民健康保険、40歳以上なら介護保険料も含めた合計額を記入します。e-Taxで作成する場合も、同じ項目の入力画面があります。
5. 赤字の年でも申告しておく
開業したばかりで利益が出なかった年も、申告はしておきましょう。国税庁は、確定申告書を提出すると、そのデータが地方公共団体へ送られるため、あらためて住民税や事業税の申告書を提出する必要はないとしています。
逆に、確定申告の提出義務がない方は、原則として市区町村へ住民税の申告書を出す必要があります。所得の情報は国民健康保険料の判定にも使われます。「収入が少ないから何もしない」が、いちばんもったいない選択です。
どこまで自分でやって、どこから相談するか。判断に迷ったときは、運営者情報もご覧ください。
よくある質問
サロンの業務委託で働いています。国民年金と国保は自分で払うのですか?
サロンと業務委託契約を結んで働く場合、あなたは個人事業主です。会社員のように勤務先の社会保険に加入するのではなく、原則として自分で国民年金と国民健康保険に加入して納めます。報酬明細から社会保険料が引かれていないなら、自分で払う立場だと考えてよいでしょう。契約の内容によって扱いが変わることもあるため、不安なときはご相談ください。
ネイルサロンとアルバイトを掛け持ちしています。控除はどう書けばいいですか?
アルバイト先の給与から社会保険料が天引きされている場合、その金額も社会保険料控除の対象です。国税庁は、控除できる金額を「その年に実際に支払った金額または給与や公的年金等から差し引かれた金額の全額」としています。天引き分は源泉徴収票で確認し、自分で納めた国民年金や国保の分と合わせて申告します。二重に数えないよう、内訳を分けてメモしておくと安心です。
去年の国保を払い忘れていました。今年まとめて払っても控除できますか?
社会保険料控除は「その年に実際に支払った金額」が対象です。去年分を今年まとめて払ったのであれば、今年分の社会保険料控除に含められます。売上が伸びた年にまとめて納めると、その年の控除を厚くできるという考え方もあります。ただし滞納には延滞金などの負担が生じることもあるため、支払いが難しいときは早めに市区町村へ相談してください。
今日から変えられること
- 国民年金・国保は経費ではなく「社会保険料控除」に書く
- 仕事用口座からの引き落としは帳簿で「事業主貸」にする
- 秋に届く控除証明書は、届いたその日にファイルへ入れる
- 家族の分を払っているなら、その領収証書も取っておく
- 免除・猶予を受けた期間があるなら、追納できるか確認する
- 赤字の年でも申告して、所得の情報を残しておく
控除の書き忘れは、あとから気づいても取り返しがつかないわけではありません。ただ、最初から正しく書いておくほうが、ずっとラクです。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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