ネイリストの売上は「お金が入った日」ではなく「施術が終わった日」で数えます。カード決済の入金のズレも回数券も、この一本の線で整理できます。
「12月に施術したお客様のカード代金が、1月に振り込まれた。これはどちらの年の売上?」
帳簿を見返すときに、いちばん多く出てくる悩みです。
答えは「12月の売上」です。この記事では、その理由と、働き方ごとの日付の決め方を順番に説明します。
売上の日付は「入金日」ではありません
まず、いちばん大事な考え方からです。
国税庁は、その年の収入金額について、こう説明しています。年末までに現実に金銭等を受領していなくても、「収入すべき権利の確定した金額」になる、と。
そのうえで「実際に金銭等を受領したか否か、また、代金を請求したか否かは関係がありません」とも書かれています。
つまり、通帳に入った日ではなく、仕事を終えて代金をもらえる立場になった日が基準になります。
国税庁のページには、こんな例も載っています。12月20日に商品を売り、代金を翌年1月10日に受け取った場合は、売った年の収入になる、というものです。
ネイルの施術は「提供を完了した日」
もう少し具体的な決まりもあります。
所得税基本通達では、人的役務の提供による収入金額は「その人的役務の提供を完了した日」によるとされています。
人的役務とは、人が自分の体や技術を使って行うサービスのことです。ネイルの施術はここに入ります。
ジェルを塗り終えて、お客様をお見送りした日。それが売上の日付です。
ただし、同じ通達には続きがあります。期間の経過や役務の提供の程度などに応じて報酬を受け取る特約や慣習がある場合は、その収入すべき事由が生じた日による、という内容です。
業務委託の「月末締め」が、まさにこれにあたります。くわしくは次の章で見ていきます。
働き方別・売上に書く日付の決め方
ネイリストのお金の受け取り方は、働き方によってさまざまです。一覧にまとめます。
| お金の受け取り方 | 売上に書く日付 |
|---|---|
| ホームサロンで現金をいただいた | 施術した日 |
| カードやQRコード決済で払ってもらった | 施術した日(入金日ではありません) |
| シェアサロンでお客様から直接いただいた | 施術した日 |
| 出張ネイルで後日振込にしてもらった | 施術した日 |
| サロンの業務委託で月末締め・翌月払い | 契約で決めた締め日(ふつうは施術した月) |
| 回数券や月額メニューを前払いでいただいた | 施術を終えた分だけ、その日 |
カード・QR決済は「入金までの時間差」を気にしない
キャッシュレス決済を入れているサロンでは、実際の入金は数週間先になることがあります。
それでも売上の日付は施術日です。入金までの間は「売掛金」として、まだ回収していないお金という扱いになります。
入金されたときは、新しい売上ではありません。売掛金が現金に変わっただけです。
ここを間違えて入金日でもう一度売上を立ててしまうと、同じ施術を二重に数えることになります。
決済手数料は「引く前の金額」で売上を書きます
キャッシュレス決済では、手数料を引かれた金額が振り込まれます。
このとき、振り込まれた手取り額を売上にしてはいけません。
売上は、お客様が払った金額そのままで書きます。差し引かれた手数料は、別に経費として書きます。
国税庁は必要経費を、収入を得るために直接必要な売上原価や販売費、管理費その他の費用だと説明しています。決済手数料はこの「業務上の費用」にあたります。
たとえば12,000円の施術をカードで受けて、手数料が408円引かれ、11,592円が振り込まれたとします。
- 売上:施術日に12,000円
- 経費:手数料408円(支払手数料など)
- 入金:11,592円は売掛金の回収
手取りの11,592円だけを書くと、売上も経費も実際より小さくなります。もうけの金額は同じでも、正しい帳簿にはなりません。
ほかにどんな支払いが経費になるのかは、ネイリストの経費一覧にまとめています。
シェアサロン・出張ネイルはお客様からいただいた日
シェアサロンやホームサロンで、お客様から直接代金をいただく場合はシンプルです。
施術を終えた日が、そのまま売上の日付になります。席代やレンタル料は経費なので、差し引かずに書いてください。
出張ネイルで、まとめて後日振込にしてもらっているときも同じです。施術した日ごとに分けて書きます。
別にいただいている出張料も、施術料金と同じ日の売上に含めます。
業務委託は「締め日」と「引かれる前の金額」
サロンと業務委託契約を結んでいる方は、報酬明細が手がかりになります。
多くの契約では「月末締め・翌月◯日払い」のように、期間を区切って報酬を計算します。
この場合は、その締め日に売上が確定したと考えます。12月分の報酬が1月に振り込まれても、12月の売上です。
もうひとつ大事なのが金額です。報酬から源泉徴収されている場合、帳簿に書くのは差し引かれる前の総額になります。
差し引かれた税額は、前払いした所得税です。確定申告で精算されるので、捨てずに明細を保管してください。
指名料、物販の歩合、出張料なども売上に含めます。名前が違っても、仕事で得たお金であることは同じです。
回数券・定額メニューの前払いは、まだ売上ではありません
ここ数年、回数券やサブスク型の定額メニューを取り入れるサロンが増えました。
先にまとまったお金をいただけるのはうれしいのですが、帳簿では少し注意が必要です。
前払いで受け取ったお金は、受け取った時点ではまだ売上になりません。施術がまだ終わっていないからです。
前の章のとおり、人的役務の提供による収入は「提供を完了した日」が基準です。使われていない回の分は、その年の収入に入れません。
回数券の考え方を数字で見てみます
11月に、ジェル3回分の回数券を30,000円で販売したとします。年内に使われたのが2回だった場合は、次のようになります。
| 内容 | 金額 | 帳簿での扱い |
|---|---|---|
| 11月に受け取った代金 | 30,000円 | いったん前受金 |
| 年内に施術した2回分 | 20,000円 | その年の売上 |
| 年をまたぐ残り1回分 | 10,000円 | 前受金のまま繰り越し |
「前受金」は、預かっているお金という意味の言葉です。むずかしく考えず、まだ働いていない分と覚えてください。
翌年に3回目の施術をしたら、そのときに10,000円を売上に振り替えます。
月額制のケアメニューは毎月ずつ
毎月決まった額をいただく定額メニューは、考え方が少し変わります。
通達には、期間の経過に応じて報酬を受け取る特約や慣習がある場合は、その事由が生じた日による、と書かれています。
毎月分を毎月いただく取り決めなら、その月ごとに売上として書いていきます。
なお、有効期限が切れて使われないまま終わった回数券の扱いは、契約の決め方によって変わります。自己判断せず、個別に確認してください。
店販商品と、自分で使った分
ネイルオイルやキューティクルクリームの店販も、売上です。
通達では、商品などの販売による収入金額は「その引渡しがあった日」によるとされています。お客様に手渡した日、と考えれば大丈夫です。
気をつけたいのが、店販用に仕入れた商品を自分で使ったときです。
国税庁は「商品を自家用に消費した場合や贈与した場合には、その商品の販売があったものとして取り扱われます」と説明しています。
売るつもりで仕入れたオイルを自分用に開けた、友人にプレゼントした。こうした場合は、収入に入れる必要があります。
いくらで計上するかには決まりがあります。金額の出し方は個別に確認してください。
いっぽう、施術に使うジェルやファイルを自分のネイルに使った場合は、売上ではなく経費側の調整になります。自分のために使った分は、仕事の経費から外して考えます。
年またぎで迷わないためのチェックリスト
ここまでの内容を、手を動かせる形にまとめます。
- 売上の元にするのは、通帳ではなく予約表や施術記録にする
- キャッシュレス決済の入金明細は「回収の記録」として別に保管する
- 12月に施術して年明け入金になるものを、年末に書き出しておく
- 業務委託のサロンから、12月分の報酬明細を必ず受け取る
- 前払いで受け取ったお金は「前受金」と書いて、売上と分けておく
- 決済手数料は差し引かず、売上と経費に分けて書く
- 源泉徴収されている報酬は、引かれる前の総額で書く
とくに効くのが1つ目です。予約表には日付と施術内容がすでに残っています。これを起点にすれば、入金日に引っぱられません。
日付がズレると、あとから直す手間がかかります
12月分の売上を翌年に回してしまうと、その年の所得が本来より少なく計算されます。
気づいた時点で申告をやり直すことになり、手間も気持ちの負担も増えます。
逆に、翌年の売上を今年に入れてしまうケースもあります。回数券の前受金がこれにあたります。
どちらも、年末と年始の1か月を丁寧に見るだけで防げます。1年のうち、いちばん手を止めて確認したいのがこの時期です。
例外:現金の出入りで計算できる特例もあります
「入金日で数えられたら楽なのに」と思った方へ、例外の制度もお伝えしておきます。
青色申告をしている小規模事業者は、現金の出し入れを基準に計算する「現金主義による所得計算の特例」を選べます。
国税庁によると、小規模事業者とは、その年の前々年分の不動産所得の金額と事業所得の金額の合計額が300万円以下である方のことです。
この金額は、事業専従者給与(控除)の額を必要経費に入れないで計算したものとされています。
使うには届出が必要です。適用を受けようとする年の3月15日までに「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を、納税地の税務署長に提出します。
その年の1月16日以後に新しく開業した場合は、開業した日から2か月以内が期限です。
ただし、注意点があります。この特例を選ぶと、青色申告特別控除は10万円だけになります。
手間は減りますが、控除の額は小さくなります。売上の規模によっては、原則どおり施術日で数えるほうが有利です。
どちらが向いているかは、その方の売上や働き方で変わります。判断に迷うときは、税理士が運営するネイリスト専門の確定申告サービスにご相談ください。
よくある質問
12月に施術して、カードの入金が1月でした。どちらの年の売上ですか。
施術した12月の売上です。国税庁は、年末までに現実にお金を受け取っていなくても、収入すべき権利の確定した金額がその年の収入になると説明しています。入金日ではなく、施術を終えた日で数えてください。
業務委託のサロンから、税金が引かれたあとの金額が振り込まれます。売上はどちらを書きますか。
引かれる前の総額を書きます。差し引かれた金額は、前払いした所得税です。確定申告のときに精算されるので、報酬明細を必ず保管してください。手取り額だけを書くと、売上が実際より少なくなってしまいます。
回数券を売ったお金は、売った月の売上にしてよいですか。
いいえ。施術を終えた分だけが売上になります。まだ使われていない回の分は「前受金」として分けておき、実際に施術した年の売上に振り替えます。年をまたぐ回数券は、年末に残りの回数を数えておくと安心です。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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