出張ネイルやサロンの掛け持ちで車を使うなら、ガソリン代も駐車場代も自動車税も、仕事で使った割合の分だけ経費にできます。その割合の決め方と、残しておく記録を具体的に説明します。
ネイリストの車は「仕事で使った割合」の分が経費になります
先に結論をお伝えします。車にかかったお金は、仕事で使った割合の分だけ経費にできます。全額は無理ですが、ゼロでもありません。
国税庁は、事業所得の必要経費に入れられる金額を2つ挙げています。「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」と、「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」です。
お客様のお宅へ向かうガソリン代も、ジェルやファイルを仕入れに行くときの高速道路料金も、この「業務上の費用」にあたります。
ただ、車を仕事だけに使っている方はほとんどいません。スーパーにも行けば、家族の送り迎えにも使います。
こうした「生活にも仕事にもかかわる支出」を、税金の世界では家事関連費と呼びます。国税庁も、家事上の費用は必要経費にならないとしたうえで、ひとつの支出が家事上と業務上の両方にかかわることがある、と説明しています。
そして経費にできる範囲は、こう決められています。「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」(国税庁タックスアンサーNo.2210)。
かたい言い方ですが、やることは2つだけです。
- 仕事に使った部分を、はっきり分けること
- どう分けたのか、その根拠を記録に残すこと
逆に言えば、なんとなく「半分くらい」で決めた数字は認められません。ここがいちばんつまずくところなので、あとの章で実際に計算します。
働き方によって、車の出番は変わります
- 出張ネイルが中心の方……移動そのものが仕事です。お客様宅までの往復が走行距離の大半を占めるので、仕事の割合は高くなりやすくなります
- サロンと業務委託契約を結んでいる方・掛け持ちの方……自宅とサロンの往復、A店からB店への移動が対象になります
- シェアサロンを使っている方……自宅とシェアサロンの往復、材料の買い出しが対象になります
- ホームサロン(自宅サロン)の方……外に出るときだけが対象です。問屋への買い出し、講習会、お客様宅への出張などが中心になります
同じ「ネイリストの車」でも、働き方によって仕事の割合はまったく違います。だからこそ、他の人の数字を真似するのではなく、自分の使い方から割合を出すことが大切です。
車で経費になるもの・ならないもの
「ガソリン代くらいかな」と思っている方が多いのですが、車にかかるお金はガソリン代だけではありません。まずは全部出してみましょう。
経費になりうるもの
- ガソリン代・軽油代
- 月極駐車場代、出張先のコインパーキング代
- 高速道路料金・ETCの利用料
- 自賠責保険・任意保険の保険料
- 自動車税・軽自動車税、自動車重量税
- 車検費用、オイル交換、タイヤ交換、修理代
- 洗車代、ドライブレコーダーやカーナビなどの用品代
- 車そのものの代金(あとの章で説明する減価償却で、何年かに分けて経費にします)
- 車のローンの利息
経費にならないもの
- 駐車違反やスピード違反の反則金など。国税庁は、罰金、科料および過料などは必要経費にならないと示しています
- プライベートで使った分
- ローン返済額のうち元本の部分(理由はFAQで説明します)
- 生計を一にする家族に払った「車の使用料」。国税庁は、生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費にならないとしています
| 支出の例 | 帳簿の科目の例 | 経費にできる範囲 |
|---|---|---|
| ガソリン代 | 旅費交通費・車両費 | 仕事で使った割合の分 |
| 月極駐車場代 | 地代家賃・車両費 | 仕事で使った割合の分 |
| 出張先のコインパーキング代 | 旅費交通費 | お客様宅へ行った分は全額 |
| 自動車税・自動車重量税 | 租税公課 | 仕事で使った割合の分 |
| 自賠責保険・任意保険 | 損害保険料 | 仕事で使った割合の分 |
| 車検・修理・オイル交換 | 修繕費・車両費 | 仕事で使った割合の分 |
| 車そのものの代金 | 減価償却費 | 使える年数に分けたうえで、仕事で使った割合の分 |
| ローンの利息 | 利子割引料 | 仕事で使った割合の分 |
| 反則金・罰金 | - | 経費にできません |
科目の名前そのものに、厳密な決まりがあるわけではありません。「車両費」という科目をつくってまとめる方もいます。大切なのは、一度決めたら毎年同じ科目で続けることです。
家族名義の車を使っている場合
「車が夫の名義なので経費にできないと思っていました」という声をよく聞きます。
判断のポイントは名義ではなく、そのお金を実際に誰が負担したかです。自分が払ったガソリン代や駐車場代、自動車税などは、仕事で使った割合の分を経費にできます。
ただし、生計を一にする家族に「車を借りている使用料」としてお金を払っても、それは経費になりません。国税庁は、こうした場合に受け取った側も所得として考えない、という整理をしています。
車以外の支出の線引きが気になる方は、ネイリストの経費一覧もあわせてご覧ください。
按分の割合はこう決める(走行距離・使用日数)
ここが本番です。仕事とプライベートで分けることを、税金の世界では按分(あんぶん)といいます。
じつは国税庁は、按分の計算式を決めていません。だからこそ、自分の使い方に合った物差しを選び、その根拠を残すことが大切になります。車で使いやすい物差しは、次の2つです。
その1 走行距離で分ける
一定期間に走った距離のうち、仕事で走った距離が占める割合で計算します。出張ネイルの方にいちばん向いています。
例1:出張ネイルが中心の方
1か月の走行距離が800km、そのうちお客様宅への往復と材料の買い出しが640km。
- 640km ÷ 800km = 80%
- ガソリン代が1か月12,000円なら、12,000円 × 80% = 9,600円
- 1年分では 9,600円 × 12か月 = 115,200円
例2:ホームサロンの方
1か月の走行距離が600km、そのうち問屋への買い出しと講習会への往復が90km。
- 90km ÷ 600km = 15%
- ガソリン代が1か月8,000円なら、8,000円 × 15% = 1,200円
15%という数字は小さく見えるかもしれません。でも、根拠のない大きい数字を書くより、きちんと説明できる小さい数字のほうが、あとで困りません。
その2 使用日数で分ける
走行距離をメモするのが続かない方は、日数で分ける方法もあります。サロンを掛け持ちしていて、行き先がだいたい決まっている方に向いています。
例3:サロンを掛け持ちしている方
1か月に車を使った日が20日、そのうちサロンへの出勤や材料の買い出しで使った日が12日。
- 12日 ÷ 20日 = 60%
- 自動車保険料が1年60,000円なら、60,000円 × 60% = 36,000円
通勤でもプライベートでも使った日をどう数えるかは、自分でルールを決めて、毎年同じ数え方を続けてください。年によって都合よく変えると、根拠を説明できなくなります。
残しておく記録
- 運転の記録(日付/行き先/用件/走行距離)。スマホのメモアプリで十分です
- ガソリンのレシート、ETCの利用明細、駐車場の領収書
- 予約表や施術の記録(その日どこへ行ったかの裏づけになります)
- 車検証、保険証券、自動車税の納税通知書、ローンの契約書
1年分すべてを細かく記録するのが大変なら、まずは1か月だけ丁寧につけて、その割合を1年に使う方法もあります。その場合は「どの月の記録から出した割合か」をメモに残しておきましょう。
車そのものは「減価償却」で何年かに分けて経費にします
車を買った年に、代金を全額経費にすることはできません。
国税庁は、何年も使う資産について、取得に要した金額は取得した時に全額必要経費になるのではなく、使用可能期間の全期間にわたって分割して必要経費にしていくものだと説明しています。これが減価償却です。車両運搬具も、その対象として挙げられています。
まず金額のラインを確認します
- 10万円未満……買った年に全額を経費にします
- 10万円以上20万円未満……一定の要件のもとで、3年に分けて毎年3分の1ずつ経費にできます
- 青色申告の方は、10万円以上40万円未満のものを買った年に全額経費にできる特例があります。合計300万円に達するまでが限度で、令和11年(2029年)3月31日までに取得したものが対象です。なお令和8年(2026年)3月31日までに取得した場合、この特例の上限は30万円未満でした
車は多くの場合この金額を超えます。そのときは、次の耐用年数に分けて計算することになります。
金額を判定するときの注意点が2つあります。ひとつは、購入代金には引取運賃や購入手数料なども含めて判定すること。もうひとつは、消費税を含めるかどうかは自分の経理方式によるという点です。免税事業者の方は、消費税を含めた金額で判定します。
車の耐用年数(国税庁の耐用年数表より)
| 乗り物の種類(一般用のもの) | 耐用年数 |
|---|---|
| 自動車のうち小型車(総排気量が0.66リットル以下のもの)=いわゆる軽自動車 | 4年 |
| 自動車のうち上記以外のもの=いわゆる普通乗用車 | 6年 |
| 2輪・3輪自動車(バイク) | 3年 |
| 自転車 | 2年 |
出張ネイルで電動アシスト自転車やバイクを使っている方も、考え方はまったく同じです。
計算してみます
個人の方の法定の償却方法は、一般的に定額法です。定額法の計算は「取得価額 × 定額法の償却率」で、毎年同じ金額になります。耐用年数4年なら1年あたり4分の1、6年ならおおよそ6分の1が目安です。正確な償却率は国税庁の「減価償却資産の償却率等表」で確認できます。
年の途中で使い始めたときは、その年に業務で使った月数の分だけを計算します。
例:軽自動車を支払総額120万円で買い、4月から仕事にも使い始めた。仕事で使う割合は40%
- 1年分の償却費 1,200,000円 ÷ 4年 = 300,000円
- 4月から12月までの9か月分 300,000円 × 9 ÷ 12 = 225,000円
- 仕事で使った割合をかける 225,000円 × 40% = 90,000円
この90,000円が、その年の経費になります。翌年以降は、1年分の300,000円に40%をかけた120,000円が目安です。
中古車を買った場合
中古車は、新車より短い年数で計算できます。
国税庁は、中古資産について、取得したとき以後の使用可能期間として見積もった年数を耐用年数にできるとしています。そして、その年数を合理的に見積もるのが難しいときは、次の「簡便法」で計算してよいと説明しています。
- 法定耐用年数の一部が過ぎている……(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 20/100
- 法定耐用年数の全部が過ぎている……法定耐用年数 × 20/100
- 1年未満の端数は切り捨て、計算結果が2年未満のときは2年とします
たとえば4年落ちの普通乗用車なら、(6年 - 4年)+ 4年 × 20% = 2.8年。端数を切り捨てて2年です。同じ金額でも、新車の6年より1年あたりの経費が大きくなります。
開業前から持っていた車を使い始めたとき
独立するときに、もともと自分用に乗っていた車をそのまま仕事にも使い始める方は多いと思います。
この場合は、買ったときの金額をそのまま使って計算することはできません。国税庁は、仕事に使っていなかった期間の「減価の額」を取得価額から差し引いた金額を、仕事に使い始めた日の未償却残高とすると説明しています。その減価の額は、法定耐用年数の1.5倍にあたる年数を使い、旧定額法に準じて計算します。
かなり手間のかかる計算です。車検証と、買ったときの注文書や領収書を手元に用意したうえで、専門家に確認するのが確実です。
今日からできる3つのこと
- 運転の記録をつけ始める……スマホのメモに「日付/行き先/用件/走行距離」の4つを書くだけで十分です。今日から始めれば、来年の申告が楽になります
- 車の書類を1か所にまとめる……車検証のコピー、保険証券、自動車税の納税通知書、ローンの契約書、買ったときの注文書。クリアファイル1枚で足ります
- 按分の物差しを決めて、理由を1行メモする……「出張が中心なので走行距離で分ける」「行き先が決まっているので日数で分ける」。この1行が、あとで自分を助けます
車の経費は、金額が大きいぶん、やるかやらないかで手取りがはっきり変わります。一方で、根拠のない割合を書くと、あとから説明できずに困ります。どちらも避けるために必要なのは、特別な知識ではなく、毎日の小さな記録です。
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よくある質問
車のローンを払っています。毎月の返済額は全部経費になりますか?
いいえ。返済額のうち元本の部分は経費になりません。車の代金は減価償却で何年かに分けて経費にするので、元本も経費にすると二重に計上することになってしまうからです。一方、利息は経費にできます。国税庁も、業務用資産の購入のための借入金など、業務のための借入金の利息は必要経費になると説明しています。ただし仕事とプライベートの両方で使う車なら、利息も仕事で使った割合の分だけです。
家族名義の車を仕事に使っています。経費にできますか?
大切なのは名義ではなく、そのお金を実際に誰が負担したかです。自分が払ったガソリン代、駐車場代、自動車税などは、仕事で使った割合の分を経費にできます。ただし、生計を一にする家族に「車の使用料」としてお金を払っても、それは経費になりません。国税庁は、生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費にならないとしています。
駐車違反の反則金やスピード違反の罰金は経費になりますか?
なりません。国税庁は、罰金、科料および過料などは必要経費にならないとはっきり示しています。お客様のお宅へ向かう途中だったとしても同じです。ガソリンのレシートと一緒に保管しがちなので、帳簿に入れないよう分けておきましょう。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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