会社員と違って退職金のないネイリストが、老後のためのお金を積み立てながら、毎年の所得税と住民税も軽くできるのが「小規模企業共済」です。
「ジェルや機材の経費は少しわかってきたけれど、貯金や老後のことは何も手をつけていない」。そんなネイリストの方は少なくありません。
サロン勤務の会社員なら、会社が退職金や厚生年金を用意してくれます。でも業務委託・シェアサロン・自宅サロン・出張ネイルで働くネイリストは、そのしくみが自分にはありません。
この記事では、国が全額出資する機関が運営する「小規模企業共済」を、税務がはじめての方にもわかる言葉で説明します。掛金の決め方、税金が軽くなる目安、加入できる働き方、そして先に知っておきたい注意点までまとめました。
小規模企業共済とは?ネイリストの「自分でつくる退職金」
小規模企業共済は、小規模企業共済法にもとづく国の制度です。国が全額を出資している独立行政法人中小企業基盤整備機構(略して「中小機構」)が運営しています。
しくみはとてもシンプルです。毎月決めた金額を積み立てて、サロンをやめたとき(廃業したとき)や、65歳以降になったときに受け取ります。中小機構によると、全国で約162万人が加入しています。
いちばん大きな特徴は、積み立てた掛金の全額を、その年の所得から差し引けることです。国税庁も「控除できる金額は、その年に支払った掛金の全額です」と説明しています。つまり、自分の将来のために貯めたお金で、その年の税金が軽くなります。
ジェル代や機材代の「経費」とは、まったく別のもの
ここはとても大事なので、先に整理しておきます。ジェルやポリッシュの材料費、ネイルマシン、筆やニッパーは「経費」です。売上から差し引いて、事業の利益を計算するためのお金です。
一方、小規模企業共済の掛金は経費ではありません。利益を計算したあとで、所得から差し引く「所得控除」という別の枠に入ります。正式には「小規模企業共済等掛金控除」と呼ばれます。
| ジェル代・機材代などの経費 | 小規模企業共済の掛金 | |
|---|---|---|
| お金はどうなる | 支払って出ていく | 自分の積み立てとして残る |
| 申告での扱い | 売上から差し引く経費 | 所得から差し引く「所得控除」 |
| 書く場所 | 青色申告決算書などの経費欄 | 確定申告書の「小規模企業共済等掛金控除」欄 |
| お金が戻るか | 戻らない | 廃業時や65歳以降に受け取れる |
経費のほうを先に整えたい方は、ネイリストの経費一覧にジェル代や機材代の考え方をまとめています。経費を正しく計上したうえで、この共済を上乗せするのが順番です。
掛金はいくらから?税金はどれくらい軽くなるか

中小機構によると、掛金の月額は1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で自由に決められます。「まずは月1,000円から」でも始められる金額設定です。
しかも、加入したあとに増やすことも減らすこともできます。中小機構は「掛金の増額、減額に回数制限はありません」と説明しています。ただし増減は月に1回までで、同じ月に何度も変えることはできません。
納め方は口座振替だけ
- 引き落としは本人名義の預金口座からの口座振替です
- 毎月18日に引き落とされます(土日祝日の場合は翌営業日)
- 納付は「月払い」「半年払い」「年払い」から選べます
- まとめて先に払う「前納」もでき、前納減額金を受け取れます
税金が軽くなる金額の目安を計算してみます
掛金が所得から差し引かれると、所得税と住民税の両方が軽くなります。所得税の税率は国税庁の速算表で決まっており、課税される所得が195万円から330万円未満の人は10%です。住民税の所得割は、総務省によると標準税率が10%(道府県民税4%+市町村民税6%)です。
たとえば、経費や控除を引いたあとの課税所得が250万円のネイリストの場合を考えます。この方の税率は所得税10%と住民税10%で、合わせておよそ2割です。掛金を月2万円(年24万円)にすると、軽くなる税金は年24万円の約2割で、およそ4万8千円が目安になります。
| 毎月の掛金 | 1年間の掛金 | 軽くなる税金の目安(税率が合計2割の場合) |
|---|---|---|
| 1万円 | 12万円 | およそ2万4千円 |
| 2万円 | 24万円 | およそ4万8千円 |
| 3万円 | 36万円 | およそ7万2千円 |
| 7万円(上限) | 84万円 | およそ16万8千円 |
この表はあくまで目安です。掛金を差し引いた結果、課税所得が下の税率の区分に下がると、軽くなる金額はこれより小さくなります。また、復興特別所得税や住民税の均等割は含めていません。自分の場合の正確な金額は、直近の申告書の数字を見ながら計算する必要があります。
逆にいうと、その年の所得が少ない、あるいは赤字のネイリストは、税金が軽くなる効果もほとんどありません。「積み立てとしては続けたいけれど、今年の節税は期待できない」という年もあると理解しておいてください。
入る前に知っておきたい3つの注意点
節税の話ばかり聞いて始めると、あとで困ることがあります。中小機構が公表している条件のうち、必ず知っておきたいものを3つ挙げます。
1. 12か月未満でやめると、掛金は戻ってきません
中小機構は「掛金納付月数が12ヶ月未満の場合は、解約手当金のお受け取りはできず、納付した掛金は掛け捨てとなります」と明記しています。1年続かない可能性があるなら、まずは無理のない少額から始めるのが安全です。
2. 自分の都合でやめる場合、20年未満だと元本を下回ります
中小機構によると、納付した掛金に対して100%以上のお金を受け取れるのは、掛金納付月数が240か月(20年)以上からです。それより前に自分の意思で解約すると、受け取る解約手当金は掛金の合計額を下回ります。
解約手当金の額は、掛金の納付月数に応じて掛金の80%から120%に相当する額です。つまり短い期間でやめると、8割程度しか戻らないこともあります。
ただし、これは「任意解約」の話です。サロンを廃業したときや65歳以降に受け取る場合は「共済金」という別の扱いになります。中小機構によると、個人事業を廃業した場合の共済金Aは掛金納付月数6か月以上、65歳以上で180か月以上払い込んだ方が受け取れる共済金Bも6か月以上が要件です。
3. 掛金を増やしたり減らしたりすると、月数の数え方が変わります
中小機構は「加入期間が240か月以上でも、途中で掛金を増額/減額した場合で掛金区分ごとの掛金納付月数が240か月を下回ったときは、任意解約した場合に受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回ることがあります」と説明しています。
納付月数は掛金の区分ごとに数えられます。つまり「20年入っていれば必ず元本以上」とは言い切れません。売上が伸びたときに増額するのは自然なことですが、この数え方だけは覚えておいてください。
受け取るときに税金がゼロになるわけではありません
注意点の最後に、受け取り時の扱いも押さえておきます。中小機構によると、一括で受け取る場合は退職所得扱い、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いになります。一括と分割の併用も可能です。
どちらも税制上の優遇がある扱いですが、まったく課税されないわけではありません。「毎年の税金を軽くしながら、受け取るときに有利な形で精算する制度」と理解しておくと、期待とのズレがなくなります。
加入できるネイリスト・できないネイリストと、申込みの手順

小規模企業共済は誰でも入れる制度ではありません。ネイリストの働き方によって、はっきり分かれるところがあります。
人数の条件:ネイルサロンは「従業員5人以下」
中小機構の加入資格では、業種によって人数の条件が違います。商業やサービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主が対象です。建設業や製造業などの場合は20人以下です。
ネイルサロンはサービス業にあたるため、5人以下が目安になります。ひとりで営業しているネイリストなら、この条件で引っかかることはありません。スタッフを雇っている場合は、人数の数え方に決まりがあるので中小機構の注記を確認してください。
いちばんの分かれ道は「給与か、報酬か」
中小機構は、加入できない方として「事業を兼業している給与所得者」を挙げています。さらに公式のよくあるご質問では、「サラリーマンとして固定給がある場合はご加入することができません」とも説明しています。
つまり、サロンから「給与」をもらいながら、副業で自宅サロンをしているネイリストは加入できません。ここは「業務委託だと思っていたら給与だった」というケースが多いところです。まずは自分の報酬明細を確認してください。
中小機構は、個人で事業を行っている方が加入できるかどうかを、「事業所得で確定申告している」「雇用関係がない(給与所得がない)」「完全歩合制である」「事業者として社会通念上認められている」などから総合的に判断すると説明しています。
| あなたの働き方 | 加入できるかを見るポイント |
|---|---|
| サロン業務委託(完全歩合の報酬) | 事業所得で確定申告していれば対象になり得ます |
| サロンから給与をもらっている | 給与所得者との兼業は加入できません |
| シェアサロンで働いている | 個人事業主として申告していれば対象になり得ます |
| 自宅サロン(ホームサロン) | 個人事業主として申告していれば対象になり得ます |
| 出張ネイル | 個人事業主として申告していれば対象になり得ます |
| サロン勤務(給与)+休日に自宅サロン | 主な収入が給与なら加入できません |
判断に迷うのは、給与と報酬が混ざっている方や、掛け持ちをしている方です。この場合は自分で決めつけず、申込みの前に中小機構や税理士に確認するのが確実です。
申込みから確定申告までのチェックリスト
- 報酬明細を見て、サロンからのお金が「給与」か「報酬」かを確認する
- 事業所得で確定申告しているかを確認する(開業届を出しているかも合わせて確認)
- 毎月いくらなら続けられるかを決める(1,000円から500円単位で設定できます)
- 申込方法を選ぶ。マイナンバーカードとスマートフォンがあれば、オンラインの加入受付サービスで窓口に行かずに申し込めます
- オンラインを使わない場合は、契約申込書(様式小101)などを用意し、商工会議所や商工会などの委託団体、または金融機関の窓口で手続きする
- 掛金を引き落とす自分名義の預金口座を決める(引き落としは毎月18日)
- 年末に届く「掛金控除証明書」を保管する。9月までに払込みがあれば11月に、10月から12月に加入・払込みの場合は翌年2月に発送されます
- 確定申告書の「小規模企業共済等掛金控除」欄に金額を記入し、証明書を添付または提示する
最後の証明書の添付は忘れやすいところです。国税庁は「支払った掛金の証明書または、電磁的記録印刷書面を確定申告書に添付または提示する必要があります」としています。毎年11月ごろに届いたら、レシートと一緒にしないで別に保管しておくのがおすすめです。
急にお金が必要になったときの貸付制度
中小機構によると、契約者は掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用できます。低金利で、即日貸付けも可能とされています。ネイルマシンの買い替えや内装の修繕など、急な出費があるときの選択肢として知っておくと安心です。
制度の内容や条件は変わることがあります。実際に借りる前には必ず中小機構の最新の案内を確認してください。なお、この記事を書いているサービスの詳細は運営者情報に記載しています。
よくある質問
掛金はネイルサロンの経費にできますか?
いいえ、経費ではありません。所得から差し引く「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除になります。書く場所も、青色申告決算書の経費欄ではなく、確定申告書の控除欄です。経費として計上できるのはジェル代や機材代などで、掛金はそれとは別の枠だと考えてください。
年末にまとめて払っても、その年の控除になりますか?
納付は月払い・半年払い・年払いから選べ、まとめて先に払う「前納」もできます。国税庁の説明では、控除できる金額はその年に支払った掛金の全額です。
ただし、まとめ払いには手続きと締切があります。また、その年に前納減額金を受け取った場合は、その分を掛金の総額から差し引いて申告します。年内に間に合わせたい場合は、早めに中小機構へ確認してください。
iDeCoと両方入ることはできますか?
両方入ることができます。国税庁によると、小規模企業共済の掛金と個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、どちらも同じ「小規模企業共済等掛金控除」で差し引きます。
ただし、上限はそれぞれ別に決まっています。iDeCoは自営業の方(国民年金第1号被保険者)の場合、厚生労働省の案内では月額68,000円が上限です(国民年金基金などの掛金と合わせた金額)。iDeCoの上限額は今後引き上げが予定されているため、最新の金額は公式サイトでご確認ください。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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