帳簿と聞くと難しそうですが、ネイリストの記帳は「いつ・誰から・いくら」の3つを1行ずつ並べて書くところから始められます。
サロンで業務委託として働いている方、シェアサロンを使っている方、ホームサロン(自宅サロン)や出張ネイルをしている方。働き方はさまざまですが、共通して必要になるのが帳簿です。
そして2027年分(令和9年分)から、この帳簿のつけ方によって受けられる控除の額が変わります。青色申告特別控除に「75万円」という区分が新しくできて、紙で申告する場合の上限は10万円に下がります。
この記事では、帳簿に何を書き、何年とっておけばいいのかを、ネイリストの売上や経費を例に説明します。
ネイリストにも「帳簿をつける義務」があります
まず大前提です。国税庁は「個人で事業や不動産貸付け等を行う全ての方(所得税及び復興特別所得税の申告の必要がない方も含みます。)は、記帳と帳簿書類の保存義務があります」としています。
ポイントは「申告の必要がない方も含む」という部分です。売上が少なくて確定申告が不要な年でも、帳簿をつけて保存すること自体は求められています。
「青色申告の人だけの話でしょう」と思われがちですが、これも違います。白色申告でも、事業所得を生ずべき業務を行う全ての方が対象です。青色か白色かで変わるのは、記帳の細かさと保存する年数、そして受けられる控除の額です。
1件ずつ書かなくてもかまいません
ここが一番の安心材料かもしれません。国税庁は白色申告の記帳について「一つ一つの取引ごとではなく日々の合計金額をまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してもよいことになっています」と説明しています。
つまり、1日に8人お客様が来た日でも「3月4日 売上 48,000円」と1行にまとめて書く方法が認められています。お客様ひとりずつの名前を全部書かなければいけない、というものではありません。
帳簿がないと、あとで重くなることがあります
国税庁は、令和5年分の確定申告に対する修正申告等から、売上げに関する帳簿を保存していなかったことや、帳簿の売上げについての記載が不十分だったことが税務調査で把握された場合、通常課される過少申告加算税・無申告加算税の割合に5%または10%が加重されることになったと案内しています。
本来払う税金に上乗せされるペナルティが、さらに重くなるということです。帳簿は「つけておくと得」ではなく「つけていないと損」という位置づけに変わってきています。
ネイリストの帳簿には何を書く?具体例で見てみます

国税庁が示す記帳内容は「取引の年月日、売上先・仕入先その他の相手方の名称、金額、日々の売上げ・仕入れ・経費の金額等」です。難しく書かれていますが、要するに次の4つです。
- いつ(日付)
- 誰から・誰に(相手の名前やお店の名前)
- 何の代金か(内容)
- いくら(金額)
売上の書き方の例
| 日付 | 相手方 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 3月4日 | 店頭のお客様 | 1日分の売上(8名) | 48,000円 |
| 3月10日 | ◯◯サロン | 業務委託の報酬(2月分) | 150,000円 |
| 3月18日 | △△様 | 出張ネイル(フットジェル) | 12,000円 |
サロンから業務委託で報酬をもらっている方は、注意点がひとつあります。報酬から源泉徴収されている場合、帳簿の売上に書くのは「振り込まれた手取り額」ではなく「差し引かれる前の総額」です。手取りだけを書いてしまうと、売上が実際より少なくなってしまいます。
指名料や物販(オフ用のリムーバー、ケア用のオイルなど)を別建てでもらっている場合も、忘れずに売上に含めてください。
経費の書き方の例
| 日付 | 支払先 | 内容 | 科目の例 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 3月2日 | ◯◯ネイル用品店 | カラージェル・ベースジェル | 消耗品費 | 14,000円 |
| 3月6日 | △△商会 | ネイルマシンのビット・ファイル | 消耗品費 | 5,000円 |
| 3月15日 | □□シェアサロン | 3月分の席料 | 賃借料 | 40,000円 |
| 3月20日 | 鉄道・バス | 出張ネイルの交通費 | 旅費交通費 | 1,800円 |
| 3月22日 | ◯◯スクール | ジェルネイル技能検定の講習費 | 研修費 | 30,000円 |
| 3月28日 | △△スーパー | お客様用の飲み物・お菓子 | 消耗品費 | 2,300円 |
科目名(消耗品費、旅費交通費などの分類)は、実は法律で細かく決められているものではありません。大切なのは、同じ内容の支払いを毎年同じ科目にそろえることです。「ジェル代は消耗品費」と一度決めたら、来年も再来年も消耗品費で通してください。
何がどこまで経費になるのかは、働き方によっても変わります。ネイリストの経費として認められやすいものはネイリストの経費一覧にまとめていますので、迷ったときの目安にしてください。
プライベートと混ざる支払いは分けて書きます
ホームサロンの家賃や電気代、仕事にも私用にも使うスマホ代は、全額を経費にするのではなく、仕事で使っている割合の分だけを計上します。帳簿には支払った全額を書いたうえで、年末に事業で使った分を計算する方法が一般的です。
このとき「どうしてその割合にしたのか」を説明できるよう、営業日数や使っている部屋の面積など、根拠になるものをメモに残しておいてください。
【2027年分から】青色申告特別控除が75万円・65万円・10万円に変わります
ここが今回いちばん大事なところです。国税庁は、令和9年分(2027年分)以後の所得税について、青色申告特別控除の区分が変わることを公表しています。
年の数え方がややこしいので先に整理します。「令和9年分」とは2027年1月から12月までの1年分のことで、その確定申告をするのは2028年の春です。つまり、2027年1月からの帳簿が対象になります。準備は2026年のうちから始めておくのがおすすめです。
今(2026年分の申告まで)と、これからの違い
| 控除額 | 今(令和8年分=2026年分の申告まで) | 令和9年分=2027年分から |
|---|---|---|
| 75万円 | なし | 65万円の要件+優良な電子帳簿の保存またはデジタルシームレス保存(届出書の提出が必要) |
| 65万円 | 複式簿記+e-Tax送信、または複式簿記+優良な電子帳簿の保存 | 複式簿記+e-Tax送信(e-Taxが必須になります) |
| 55万円 | 複式簿記(紙の申告でも可) | なくなります |
| 10万円 | 上記にあてはまらない青色申告の方 | 紙で申告する場合の上限。ただし下の条件に注意 |
国税庁の案内では、65万円控除の必須要件は「正規の簿記の原則により記帳し、スマホやパソコンにより、e-Taxで確定申告書及び青色申告決算書(貸借対照表を含む。)のデータを、確定申告期限までに送信する」ことと説明されています。
そして「令和8年分の確定申告までは、書面申告でも55万円の青色申告特別控除が適用可能でしたが、令和9年分以降は、書面申告の場合の控除上限額は10万円となります」とはっきり書かれています。紙で提出している方は、ここで45万円分の控除が減ることになります。
10万円控除が使えなくなる人もいます
もうひとつ変更があります。簡易な簿記で記帳している方のうち、その年の前々年分の事業所得に係る収入金額が1,000万円を超える場合、10万円の青色申告特別控除が適用できなくなります。
逆にいうと、前々年の売上が1,000万円以下であれば、簡易な簿記のままでも10万円の控除は残ります。ひとりで施術しているネイリストの多くはこちらにあてはまるはずですので、いきなり控除がゼロになる話ではありません。
ただし「10万円のままでいいか、65万円を取りにいくか」は考えどころです。仮に65万円の控除が使えるようになれば、差額は55万円。所得税と住民税の両方に効いてくるため、多くの方にとって手元に残るお金は変わってきます。
75万円を狙うなら届出書が必要です
75万円の控除は、65万円の要件に加えて「優良な電子帳簿の保存」または「デジタルシームレス保存」の要件を満たした方が対象です。どちらの場合も、適用を受ける年分の確定申告期限までに、所轄の税務署へ所定の届出書を提出する必要があります。
優良な電子帳簿とは、システムの説明書などを備え付けたうえで、訂正・削除・追加の履歴が残ること、帳簿どうしに相互関連性があることなどの要件を満たした電子帳簿のことです。会計ソフト任せにできる部分もありますが、要件の確認と届出は自分で(または依頼して)進める必要があります。
なお、現金主義による所得計算の特例を使っている場合は、65万円と75万円の控除は受けられません(10万円の控除は受けられます)。
帳簿とレシートは何年とっておけばいい?

「もう捨てていいですか」という質問はとても多いのですが、答えは青色か白色かで変わります。国税庁の資料をもとに整理します。
青色申告の場合
| 保存が必要なもの | 保存期間 |
|---|---|
| 帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など) | 7年 |
| 決算関係書類(損益計算書、貸借対照表、棚卸表など) | 7年 |
| 現金預金取引等関係書類(領収書、小切手控、預金通帳、借用証など) | 7年 |
| その他の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 |
現金預金取引等関係書類については、前々年分の事業所得及び不動産所得の金額が300万円以下の方は5年間とされています。
白色申告の場合
| 保存が必要なもの | 保存期間 |
|---|---|
| 収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿) | 7年 |
| 業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿) | 5年 |
| 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 | 5年 |
| 業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類 | 5年 |
細かく覚えるのが大変であれば、「7年」で統一しておけば足りないことはありません。年ごとの箱かファイルにまとめる習慣をつけてください。
メールやアプリで届いた領収書はデータのまま残します
国税庁は「請求書や領収書などに相当する電子データをやりとりした場合には、その電子データを一定の要件の下で保存する必要があります」としています。
ネイリストの場合、ネイル用品のネット通販の購入明細、予約管理アプリからの入金明細、サロンからメールで届く報酬明細などがこれにあたります。印刷して紙で保存する、という対応では足りない場合があるため、データはデータのまま残しておいてください。
今日から始める帳簿の4ステップ
3月にまとめてやろうとすると必ず挫折します。夏から秋は、施術の合間に整えるのにちょうどいい時期です。
ステップ1:仕事用の口座とカードを1つずつ決める
新しく作らなくてもかまいません。今ある口座のうち1つを「サロンのお金はここ」と決めるだけで、記帳の手間は大きく減ります。ジェルの仕入れも、シェアサロンの席料も、その口座かカードから払うようにします。
ステップ2:売上を1行ずつ残す
予約管理アプリを使っているなら、その日の売上合計を1行書き写すだけで足りることが多いです。業務委託の報酬は、サロンから届く報酬明細を月ごとに保存し、差し引かれる前の総額を書きます。
ステップ3:レシートを月ごとに1か所へ
財布に溜まったレシートを、月ごとの封筒やクリアファイルに入れていくだけです。分類はあとからでかまいません。まずは「捨てない・散らばらせない」の2つだけ守ってください。
ステップ4:月に1回だけまとめる
会計ソフトでも、表計算ソフトでも、手書きのノートでもかまいません。月末か月初に、その月の売上と経費を入力します。国税庁も、会計ソフトを利用すると日々の取引内容の入力だけで簡単に記帳ができると案内しています。
複式簿記による記帳が必要な65万円・75万円の控除を狙うなら、会計ソフトはほぼ必須と考えてください。手書きで貸借対照表まで作るのは、施術と両立させるには負担が大きすぎます。
忘れやすい期限のチェックリスト
- 確定申告の期間は、その年の翌年2月16日から3月15日まで(期限は3月15日)
- 青色申告をしたい年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を提出する
- その年の1月16日以後に新しく開業した場合は、業務を開始した日から2か月以内に提出する
- 75万円の控除を狙う場合は、適用を受ける年分の確定申告期限までに所定の届出書を提出する
青色申告の申請は「これから青色にしたい年の3月15日まで」がルールです。2027年分から65万円を取りにいくなら、2027年3月15日までに申請が必要になります(すでに青色の方は、あらためて申請する必要はありません)。
複式簿記もe-Taxも自分ではむずかしいという場合は、丸ごと任せてしまう方法もあります。当サービスは税理士が運営するネイリスト専門の確定申告サービスで、レシートを送るだけで記帳から申告まで進められます。どんな体制でやっているのかは運営者情報をご覧ください。
よくある質問
副業でネイルをしています。売上が少なくても帳簿は必要ですか?
国税庁は、個人で事業を行う全ての方(所得税等の申告の必要がない方も含む)に記帳と帳簿書類の保存義務があるとしています。金額が小さくても記録は残してください。なお、副業の収入が事業所得ではなく雑所得にあたる場合は扱いが変わり、前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える方は、その業務に係る現金預金取引等関係書類を5年間保存することとされています。どちらにあたるか迷う場合は個別にご相談ください。
手書きのノートでも帳簿として認められますか?
国税庁は、記帳は日々の合計金額をまとめて記載するなど簡易な方法でもよいとしていますので、手書きのノートでも帳簿になります。ただし、複式簿記による記帳が必要な控除(現在の55万円・65万円、2027年分からの65万円・75万円)を受けたい場合は、貸借対照表まで作る必要があるため、会計ソフトを使うほうが現実的です。
ジェルを買ったときのレシートをなくしてしまいました。経費にできませんか?
請求書や領収書などの書類は保存が必要とされていますので、まずはお店に再発行を頼むか、ネット通販の購入履歴を出せないか確認してみてください。それが難しい場合でも、実際に事業のために支払ったのであれば、日付・支払先・内容・金額を帳簿に記録し、クレジットカードの明細や通帳など支払いの事実がわかるものを残しておきます。金額が大きいものは早めにご相談ください。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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