自宅サロンの家賃は、全額ではなく「サロンとして使っている割合の分だけ」経費にできます。その割合の出し方を、ネイリストの実例で計算しながら説明します。
自宅サロンの家賃は「使っている割合の分」だけ経費になります
自宅の一室でネイルをしている方から、いちばん多く聞かれるのがこの質問です。「家賃は経費にしていいですか」。
答えは「サロンとして使っている部分だけならできます」です。全額は無理ですが、ゼロでもありません。
家賃のように、生活と仕事の両方にまたがる支出を、税金の世界では「家事関連費」と呼びます。国税庁も、店舗と住まいが一緒になっている家の家賃・水道光熱費・税金を、この家事関連費の例としてはっきり挙げています。
そして経費にできる範囲は、こう決まっています。「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」(国税庁タックスアンサーNo.2210)。
むずかしく聞こえますが、ポイントは2つだけです。
- 仕事に使っている部分を、はっきり分けられること
- どう分けたかの根拠を、記録として残していること
逆に言えば、なんとなく「半分くらいかな」で決めた数字は認められません。ここがいちばんつまずくところなので、次の章で実際に計算してみます。
ちなみに、按分をきちんとやるとどれくらい変わるのでしょうか。あとで計算する例では、年間144,000円を経費にできます。所得税がいちばん低い5%の方で、住民税の所得割が標準の10%だとすると、合わせて15%分。144,000円 × 15% = 21,600円ほど負担が軽くなる計算です(このほかに復興特別所得税がわずかにかかります)。
ジェル代を節約して2万円を浮かせるのは大変ですが、こちらは間取り図とメジャーがあればできます。やらない理由がありません。
按分の割合はこう出す(面積と時間、2つの物差し)

じつは国税庁は、按分の計算式を決めていません。通達では「業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する」とされているだけです(所得税基本通達45-1)。
だからこそ、自分の使い方に合った物差しを選び、その根拠を残すことが大切になります。ネイリストの場合、使いやすい物差しは次の2つです。
その1 面積で分ける(ネイル専用の部屋がある方)
家全体の広さのうち、ネイルスペースが占める割合で計算します。
たとえば、家全体が60平方メートル、ネイル専用にしている部屋が9平方メートルだとします。
- 9平方メートル ÷ 60平方メートル = 15%
- 家賃が月額80,000円(税抜)なら、80,000円 × 15% = 12,000円
- 1年分だと 12,000円 × 12か月 = 144,000円
お客様に使ってもらう洗面所など、実際にサロンとして使っている場所も考えに入れられます。ただし「家全体を使っている」まで広げるのは危険です。
その2 面積×時間で分ける(リビングの一角を使う方)
専用の部屋がなく、リビングの一角にネイルテーブルを置いている方はこちらです。面積の割合に、使っている時間の割合をかけます。
家全体60平方メートル、ネイルテーブル周りが6平方メートル、施術しているのが週5日・1日6時間の場合を計算します。
- 面積の割合 6 ÷ 60 = 10%
- 時間の割合 週30時間 ÷ 週168時間 = 約18%
- 10% × 18% = 約1.8%。家賃80,000円(税抜)なら月1,440円
数字が小さくて拍子抜けするかもしれません。でも、根拠のない大きい数字を書くより、きちんと説明できる小さい数字のほうが、あとで困りません。
| 自宅の使い方 | 向いている物差し | 残しておく記録 |
|---|---|---|
| ネイル専用の部屋がある | 面積の割合 | 間取り図、部屋の広さ、賃貸契約書 |
| リビングの一角で施術 | 面積×時間の割合 | 間取り図、予約表・施術の記録 |
| 出張ネイルが中心で自宅は準備だけ | 面積×時間の割合(時間は準備時間で) | 準備作業の記録、予約表 |
一度決めた基準は、毎年同じ考え方で続けてください。年によって都合よく変えると、根拠を説明できなくなります。
家賃以外に按分できるもの・できないもの
自宅サロンで按分するのは家賃だけではありません。国税庁も家事関連費の例として水道光熱費を挙げています。
按分して経費にできるもの
- 電気代(ジェルライト、集塵機、エアコン、照明を使うため)
- 水道代(お客様の手指を洗う、タオルを洗う)
- ガス代(タオルを温める、お湯を使う)
- インターネット回線・スマホ代(予約管理アプリ、お客様との連絡、SNSでの集客)
- 火災保険料(賃貸で自分が契約しているもの)
電気代は、面積よりも「使っている機器と時間」で説明したほうが実態に近いこともあります。ジェルライトや集塵機は消費電力が分かるので、そこから組み立てる方法もあります。
スマホ代は、使っている時間や回数で分けます。たとえば予約の連絡・お客様とのやりとり・SNSの更新で使う時間が全体の半分くらいなら、50%です。月額6,000円(税抜)なら3,000円が経費になります。「1日のうち仕事に使うのは何時間か」を1週間だけメモしておくと、根拠のある数字がつくれます。
按分せず、全額そのまま経費になるもの
ネイル専用のものは、按分の必要がありません。
- ジェル、ポリッシュ、ベースコート、トップコート、リムーバー
- ネイルマシン、UVライト・LEDライト、集塵機
- 筆、ニッパー、ファイル、ネイルチップ、パーツ
- ネイルテーブル、施術用のイス、ワゴン
- JNECネイリスト技能検定やJNAジェルネイル技能検定の受験料、セミナーの受講料
どこまでが経費になるかをまとめて確認したい方は、ネイリストの経費一覧もあわせてご覧ください。
経費にできないもの
- 生活だけに使っている部分の家賃・光熱費
- 家族と食べた食事、仕事以外でも着ている私服
- 住宅ローンの元本の返済(借りたお金を返しているだけなので、経費にはなりません)
つまずきやすい3つのポイント

1 親や配偶者に払っている家賃は経費になりません
実家の一室をサロンにして、親に月30,000円(税抜)渡している。このケースは要注意です。
国税庁は「生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費になりません」と明記しています。同じ財布で暮らしている家族の間でお金を動かしても、経費として認められないのです。受け取った親の側も、収入として考えなくてよいことになっています。
ただし、救いもあります。その建物や土地にかかる固定資産税など、家族が負担している費用のうち事業に使っている部分は、事業をしている本人の経費にできると国税庁が示しています。
2 持ち家なら「家賃」ではなく減価償却費などで考えます
持ち家の方は、そもそも家賃を払っていないので家賃の按分はありません。代わりに次のものを按分します。
- 建物の減価償却費(建物の値段を年数で分けて経費にしていく分)
- 固定資産税(国税庁も「固定資産税は業務用の部分に限って必要経費になります」としています)
- 火災保険料
- 住宅ローンの利息の部分(元本は経費になりません)
建物の減価償却は、買った金額や建物の構造によって計算が変わります。金額は個別に確認してください。
3 住宅ローン控除を受けている方は割合に注意
住宅ローン控除には「床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること」という要件があります。つまり、自宅サロンの面積が家の半分を超えてしまうと、この控除が受けられなくなります。
さらに、住まいとして使っている部分が家全体のおおむね90%以上であれば、全部を住まいとして住宅ローン控除を計算してよい取扱いがあります(租税特別措置法関係通達41-29)。逆に、サロンとして使う割合が10%を超えると、控除できる金額はその分減ります。
家賃側で経費を数万円ふやしたのに、住宅ローン控除で数万円を失う。そんなことも起こり得ます。両方を並べて考えてください。
今日からできる4ステップ
ステップ1 図と数字をそろえる
- 賃貸契約書(家賃の金額と部屋の広さが書いてあります)
- 間取り図(ネイルスペースに印をつけます)
- メジャーで測った実際の広さ
ステップ2 割合を決めて紙に残す
「家全体60平方メートル、ネイル室9平方メートル、よって15%」と、1枚のメモに書いて保存します。聞かれたときにその場で説明できる状態にするのが目的です。
ステップ3 毎月同じルールで帳簿に入れる
家賃80,000円(税抜)のうち12,000円を「地代家賃」として記録します。会計ソフトなら、支払った全額を入力して事業用の割合を設定する機能(家事按分)を使う方法もあります。
ステップ4 書類を決められた期間保存する
帳簿や書類には保存期間が決まっています。国税庁のパンフレットでは、次のように整理されています。
- 青色申告 帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)と決算関係書類は7年、領収証や預金通帳などは7年(前々年分の事業所得と不動産所得が300万円以下の方は5年)、請求書や契約書などその他の書類は5年
- 白色申告 収入金額や必要経費を書いた帳簿は7年、それ以外の帳簿や書類は5年
なお青色申告をしたい方は、その年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に出す必要があります。1月16日以後に開業した方は、開業の日から2か月以内です。
よくある質問
按分の割合は何%までなら大丈夫ですか
「何%までならOK」という決まりはありません。国税庁の通達も、使い方などを総合的に考えて判定するとしているだけで、上限の数字は示していません。大事なのは割合の大きさより、その数字をどうやって出したかを説明できることです。実際の使い方より大きい割合にしてしまうと、聞かれたときに答えられなくなります。
賃貸契約が「居住用」のままでも家賃を経費にできますか
税金の計算は実際の使い方で判断するため、契約書の名目だけで経費にできないと決まるわけではありません。ただし、賃貸契約や建物の管理規約で、お客様を招く営業が禁止されている場合があります。これは税金とは別の問題ですので、契約の内容を先に確認しておいてください。
去年の分を按分し忘れました。あとから直せますか
直せる場合があります。税金を納めすぎていたときは「更正の請求」という手続きがあり、できる期間は原則として申告期限から5年以内です。逆に税金が少なすぎたときは「修正申告」で直します。修正申告は早く出すほど有利で、税務署からの調査の事前通知の前に自分から出した場合は、過少申告加算税はかかりません。
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※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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