ネイリストの事業所得と雑所得|帳簿で決まる2026年

窓辺でノートに記録をつけるネイリスト。事業所得と雑所得の分かれ目になる帳簿づけのイメージ

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サロンの業務委託や週末だけのホームサロンの収入が「事業所得」になるか「雑所得」になるかは、帳簿をつけて保存しているかどうかで大きく変わります。

確定申告の書類を書こうとして、「事業所得」と「雑所得」という欄で手が止まった方は多いと思います。どちらに書いても同じように見えますが、実は税金の計算が大きく変わります。

そして、この2つの分かれ目をはっきり示しているのが、国税庁が令和4年10月に出した通達です。結論を先に言うと、カギは「帳簿」です。

この記事では、ネイリストの働き方に当てはめながら、どちらになるのか、どちらだと何が変わるのかを順番に見ていきます。

事業所得と雑所得はそもそも何が違うのですか

所得税では、収入をその中身によって10種類に分けています。給料は「給与所得」、土地や建物を貸した収入は「不動産所得」といった具合です。

このうち事業所得は、国税庁の説明では「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得」とされています。ネイルの施術はサービス業ですから、事業として行っていれば事業所得にあたります。

一方の雑所得は、「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれにも当たらない所得」と説明されています。どこにも当てはまらないものの受け皿、というイメージです。

そして雑所得の中でも、副業のように営利を目的として続けている収入は「業務に係る雑所得」と呼ばれます。ネイルの収入が雑所得になる場合は、ふつうこの区分に入ります。

経費が引けるのはどちらも同じです

まず誤解されやすい点をひとつ。雑所得になったからといって、ジェル代やニッパー代が経費にできなくなるわけではありません。

どちらの区分でも「売上から必要経費を引いて、残った金額に税金がかかる」という計算のしかたは同じです。何が経費になるかはネイリストの経費一覧にまとめています。

違うのは「使える特典」です

では何が違うのか。大きいのは、節税につながる制度が使えるかどうかです。主な違いを並べると、次のようになります。

できること事業所得業務に係る雑所得
青色申告できるできない
青色申告特別控除(最高65万円)使える使えない
家族への青色事業専従者給与使える使えない
赤字を給与など他の所得と相殺(損益通算)できるできない
赤字を翌年以後3年間くりこすできるできない
売上から必要経費を引くできるできる

青色申告ができるのは、不動産所得・事業所得・山林所得がある方だけ、と国税庁が明記しています。雑所得はこの3つに入っていません。つまり雑所得だと、青色申告の特典はまるごと使えないということです。

ネイリストはどちらになる?分かれ目は「帳簿」です

ここからが本題です。所得税の通達(国税庁が示す取り扱いのルール)では、事業所得かどうかの判定について、次のように書かれています。

事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得に該当することに留意する。

所得税基本通達35-2(注)/国税庁

かたい言葉が並んでいますが、やさしく言い直すとこうなります。

  • 本来は「世の中の常識から見て事業といえる程度にやっているか」で決める
  • ただし、帳簿をつけて保存していなければ、原則として雑所得になる
  • 収入が300万円を超えていて、事業と認められる事実がある場合だけは例外

国税庁が示した4つのパターン

この通達には国税庁の解説がついていて、収入金額と帳簿の有無で整理した表が載っています。内容をそのまま表にすると次のとおりです。

年間の収入金額記帳・帳簿書類の保存あり記帳・帳簿書類の保存なし
300万円を超える概ね事業所得概ね業務に係る雑所得(事業所得と認められる事実があれば事業所得)
300万円以下概ね事業所得業務に係る雑所得

注目したいのは、収入が300万円以下でも、帳簿の保存があれば「概ね事業所得」とされている点です。売上が少ないから雑所得、ということではありません。

逆に言えば、帳簿をつけずレシートもためていない状態だと、収入が300万円以下のときは雑所得と整理されてしまいます。

帳簿があっても個別に判断される2つの場合

ただし、帳簿があれば必ず事業所得になると言い切れるわけではありません。解説には、次の2つの場合は個別に判断するとあります。

  • 収入が僅少(きんしょう=ごくわずか)と認められる場合。例として、その収入が例年300万円以下で、主たる収入に対する割合が10パーセント未満の場合があげられています。なお「例年」とは概ね3年程度の期間とされています
  • 営利性が認められない場合。例年赤字で、しかも赤字を解消するための取り組みをしていない場合があげられています

「主たる収入」とは、たとえば会社員やパートとして働きながらネイルをしている方なら、その給料のことです。

ネイリストに当てはめるとこうなります

3つのケースで考えてみます。いずれも最終的には全体の事情を見て判断されますが、考え方の目安になります。

  • サロンの業務委託で年の報酬が約240万円のAさん。 他に仕事はなく、これが生活費のもとです。売上と経費を会計ソフトに入力し、ジェルや筆のレシートも保管しています。300万円以下ですが帳簿の保存があり、ネイルが主たる収入ですから、事業所得と整理されるのが自然です
  • 平日はパート、週末だけホームサロンを開くBさん。 パート収入が年約180万円、ネイルの売上が年約15万円。帳簿はつけていますが、ネイルの収入は300万円以下で、主たる収入である給料の10パーセント未満です。この場合は「僅少と認められる場合」にあたり、事業といえるかどうかが個別に判断されます
  • 出張ネイルで年の売上が約90万円のCさん。 売上はスマホのメモに書くだけで、レシートは捨ててしまいました。帳簿書類の保存がなく収入も300万円以下ですから、業務に係る雑所得と整理されることになります

Cさんのようなケースは珍しくありません。やっていることはAさんとほとんど同じなのに、記録を残していないという一点で扱いが変わってしまいます。

なお、所得の区分は「有利なほうを選ぶ」ものではありません。実態と記録に沿って決まるものだと考えてください。

雑所得になると、ネイリストは具体的に何を損するのか

「雑所得でもいいか」と思ってしまう前に、何が使えなくなるのかを具体的な場面で見ておきましょう。

1. 青色申告特別控除(最高65万円)が使えません

青色申告特別控除は、条件を満たすと所得から最高65万円を差し引ける制度です。複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に付け、期限内(翌年3月15日)に提出したうえで、e-Taxで申告するか一定の電子帳簿の要件を満たすことが条件です。この条件に届かない場合は最高55万円、簡易な記帳などの場合は最高10万円となります。

雑所得ではこの控除がゼロです。同じ売上・同じ経費でも、課税される所得が65万円分多くなる計算になります。

2. 赤字を他の収入と相殺できません

開業した年は、ネイルマシンやUVライト、集塵機、サロン用のテーブルなどをそろえるため、売上より出ていくお金のほうが多くなりがちです。

事業所得なら、この赤字を給与所得など他の所得から差し引くこと(損益通算)ができます。国税庁も、損益通算の対象になるのは不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つだとしています。

そして雑所得については、「配当所得、給与所得、一時所得および雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません」とはっきり書かれています。つまり、パート先の給料と相殺することはできません。

3. 赤字を翌年以後にくりこせません

青色申告をしている事業所得なら、相殺しきれなかった赤字(純損失)を翌年以後3年間くりこして、黒字になった年の所得から差し引けます。

開業1年目が赤字、2年目から指名が増えて黒字になった、というのはネイリストによくある流れです。雑所得だとこの仕組みが使えず、1年目の赤字はそのまま消えてしまいます。

4. 家族に払う給与を経費にできません

自宅サロンの受付や予約の返信を家族に手伝ってもらっている場合、事業所得で青色申告をしていれば、届出の範囲内で適正な金額を青色事業専従者給与として経費にできます。雑所得にはこの制度がありません。

それでいて、記録の義務はなくなりません

「雑所得なら帳簿をつけなくていい」と思われがちですが、そうとも限りません。国税庁の説明では、業務に係る雑所得がある方のうち、その年の前々年分の収入金額が300万円を超える方は、現金預金取引等関係書類を5年間保存しなければならないとされています。

現金預金取引等関係書類とは、現金のやりとりや預金の出し入れのときに作られた請求書・領収書などのことです。

さらに、前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が1,000万円を超える方が確定申告書を出すときは、総収入金額や必要経費の内容を書いた書類(収支内訳書など)を付ける必要があります。

つまり、売上が育ってくると、雑所得でも書類の保存からは逃げられません。それならば、同じ手間をかけて事業所得として青色申告の特典を受けるほうが、素直な選び方になります。

今日からできる3つのステップ

やることは多くありません。順番に進めれば大丈夫です。

ステップ1 売上と経費を帳簿に記録する

記録するのは、日付・相手先・金額・内容です。難しく考えず、次のようなものを残していきます。

  • 施術の売上(現金・カード・電子マネー・サロンからの報酬をすべて)
  • 指名料や店販(ケア用品・ファイルなど)の売上
  • ジェル、ポリッシュ、ストーンやパーツ、ネイルチップの仕入れ
  • ネイルマシン、UVライト、集塵機、筆、ニッパーなどの道具代
  • シェアサロンの席代、サロンへの手数料
  • 検定やセミナーの受講料、出張ネイルの交通費

白色申告の記帳については、国税庁も「一つ一つの取引ごとではなく、日々の合計金額のみをまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してもよい」としています。会計ソフトでも、手書きのノートでも構いません。大切なのは続けることです。

ステップ2 帳簿と書類を保存する

つけた帳簿は、保存して初めて意味を持ちます。通達が見ているのも「保存」です。

青色申告の場合、帳簿書類は原則7年間の保存とされ、請求書・見積書・納品書・送り状などは5年間でよいものもあるとされています。レシートは月ごとに封筒にまとめておくだけでも十分です。

ステップ3 青色申告承認申請書を出す

事業所得として青色申告をするには、事前の申請が必要です。期限は次のとおりです。

区分青色申告承認申請書の提出期限
原則青色申告の承認を受けようとする年の3月15日
その年の1月16日以後に新しく開業した場合業務を開始した日から2か月以内

提出先は、納税地を担当する税務署です。すでに何年か活動している方は「原則」の欄が当てはまりますので、来年分から青色申告をしたいなら、来年の3月15日までに出すことになります。

チェックリスト

  • 今年の売上を、日付と金額がわかる形で記録しているか
  • ジェル代や道具代のレシートを捨てていないか
  • サロンからもらう報酬明細をとってあるか
  • プライベートの支払いと事業の支払いが混ざっていないか
  • 青色申告承認申請書を出しているか、出す期限を把握しているか
  • ネイル以外に主な収入があるなら、その金額との割合を把握しているか

よくある質問

売上が300万円以下だと、必ず雑所得になるのですか。

いいえ、そうではありません。国税庁の解説では、収入金額が300万円以下でも記帳と帳簿書類の保存があれば「概ね事業所得」とされています。ただし、収入が例年300万円以下で主たる収入に対する割合が10パーセント未満の場合や、例年赤字で赤字を解消する取り組みをしていない場合は、事業といえるかどうかが個別に判断されます。

会社員をしながら週末だけホームサロンをしています。事業所得にできますか。

給料が主たる収入で、ネイルの収入が例年300万円以下かつ給料の10パーセント未満であれば、帳簿があっても個別に判断される場合にあたります。活動の続け方や設備、集客の取り組みなどを総合的に見て決まりますので、帳簿をつけているから自動的に事業所得になる、とは考えないでください。判断に迷う場合は税務署や専門家にご相談ください。

これまで帳簿をつけていませんでした。今からでも間に合いますか。

帳簿の有無はその年ごとに見られますので、今年分からでも始める価値は十分にあります。まず今日から売上と経費の記録を残し、レシートを保管してください。あわせて、青色申告は事前の申請が必要です。原則として承認を受けようとする年の3月15日が期限ですので、次の年分に間に合うよう準備を進めるとよいでしょう。

まとめ

  • 事業所得と雑所得は、どちらも「売上-経費」で計算する点は同じ
  • 違うのは、青色申告・赤字の相殺・赤字の3年くりこし・専従者給与が使えるかどうか
  • 通達では、帳簿書類の保存がなければ原則として業務に係る雑所得とされる
  • 収入が300万円以下でも、記帳と保存があれば概ね事業所得とされている
  • ただし収入が僅少な場合や営利性が認められない場合は、個別の判断になる
  • 今日からできるのは、記録する・保存する・申請書の期限を押さえる、の3つ

ネイリストの働き方は、サロンの業務委託、シェアサロン、ホームサロン、出張ネイルと人それぞれです。どの形でも、記録を残しているかどうかが分かれ目になるという点は変わりません。当サービスの考え方は運営者情報でご紹介しています。

※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。

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