手荒れで通った皮膚科も、腱鞘炎で通った整形外科も、医療費控除の対象になります。1年分を合計して条件を満たせば、納める所得税を減らせます。
ジェルやアセトンを毎日さわるネイリストは、手や指のトラブルと長いつき合いになりがちです。細かい作業が続けば目も疲れますし、腱鞘炎に悩む方もいます。
そうした病院代は、確定申告で「医療費控除」として使えます。ところが「10万円を超えないと無理」と思い込んで、集計すらしていない方がとても多いのです。
実は、所得が200万円未満の方は10万円より低い金額から使えます。この記事では2026年時点のルールを、ネイリストの実例で整理します。
医療費控除は「経費」とは別ものです
まず、いちばん混同しやすいところから確認します。医療費控除は、ジェル代やネイルマシン代のような「経費」とはまったく別のしくみです。
経費は、売上から直接差し引くものです。一方の医療費控除は、売上から経費を引いたあとの「所得」から、さらに差し引く所得控除のひとつです。
| 種類 | どこから引くか | ネイリストの例 |
|---|---|---|
| 経費 | 売上から引く | ジェル、ポリッシュ、ネイルマシン、サロンの家賃 |
| 所得控除 | 所得から引く | 医療費控除、社会保険料控除、基礎控除 |
ここで大事なのは、自分の治療費は経費にできないという点です。「仕事が原因の手荒れだから経費では」と考えたくなりますが、国税庁は生活のための支出(家事上の費用)は必要経費にならないとしています。
つまり、手荒れで通った皮膚科の費用は経費ではなく、医療費控除で扱います。経費にできるものとできないものの線引きはネイリストの経費一覧でも整理しています。
いくらから使える?「10万円」ではない人が多い
医療費控除の金額は、次の式で計算します。
1年間に支払った医療費 − 保険金などで補てんされる金額 − 10万円 = 医療費控除額(最高200万円)
この「10万円」の部分にポイントがあります。その年の総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく総所得金額等の5パーセントになります。
総所得金額等は、おおまかにいえば売上から経費と青色申告特別控除を引いたあとの金額です。フリーランスのネイリストでは、200万円未満になる方も珍しくありません。
| 総所得金額等 | 差し引く金額 |
|---|---|
| 200万円以上 | 10万円 |
| 180万円 | 9万円 |
| 150万円 | 7万5,000円 |
| 120万円 | 6万円 |
| 100万円 | 5万円 |
たとえば1年間の売上が320万円、経費が120万円、青色申告特別控除が65万円だったとします。総所得金額等は135万円なので、差し引く金額は6万7,500円です。
この方が1年間に医療費を12万円払っていれば、12万円から6万7,500円を引いた5万2,500円が医療費控除額になります。10万円だけを見ていたら「対象外」と勘違いしていた金額です。
ご自身の正確な総所得金額等は、確定申告書で確認してください。
「保険金などで補てんされる金額」も忘れずに
入院給付金や高額療養費、出産育児一時金などを受け取った場合は、その分を医療費から差し引きます。
差し引くのは、その給付の目的になった医療費の金額までです。たとえば入院費が15万円で給付金が20万円だったとき、引ききれない5万円を別の通院費から引く必要はありません。
ネイリストが迷いやすい「対象になる・ならない」
ネイリストは美容にかかわる支出が多いため、線引きで迷いやすい仕事です。判断の軸はシンプルで、「治療のためか、美容のためか」です。
| 対象になるもの | 対象にならないもの |
|---|---|
| 皮膚科の診療費・処方薬(手荒れ、かぶれ) | 自分のネイル、まつげエクステ、エステ代 |
| 整形外科の診療費(腱鞘炎の治療など) | 見た目をよくするための歯列矯正 |
| 眼科の診療費 | 健康診断・人間ドックの費用(原則) |
| 歯の治療費(金やポーセレンを使ったものも) | 予防接種の費用 |
| 治療のために買った市販の風邪薬 | ビタミン剤など予防・健康増進のための医薬品 |
| 通院のための電車・バス代 | 自家用車のガソリン代、駐車場の料金 |
| 妊娠がわかってからの定期検診・検査費用 | 里帰り出産のための帰省費用 |
| 入院中に病院へ支払う食事代 | 入院中の出前・外食、寝巻きや洗面具の代金 |
自分のネイルやまつげエクステは、医療費控除の対象になりません。仕事の宣伝として経費になるかどうかは別の話なので、混ぜないように注意してください。
歯の治療は、金やポーセレン(セラミック)を使ったものでも、一般的に使われている材料であれば対象です。一方で、容ぼうを美しくするための矯正は対象になりません。
交通費も間違えやすいところです。出張ネイルでお客様のご自宅へ向かう電車代は「経費」、病院へ通う電車代は「医療費控除」です。
タクシー代は、公共交通機関が使えない事情がある場合に限られます。自家用車で通院したときのガソリン代や駐車場代は、対象になりません。
市販薬が多い年は「セルフメディケーション税制」も
病院にはあまり行かないけれど、市販薬はよく買うという方向けの制度もあります。セルフメディケーション税制です。
対象の市販薬(特定一般用医薬品等)の年間購入額が1万2,000円を超えたとき、その超えた部分を所得から差し引けます。上限は8万8,000円です。
対象になるのは、平成29年1月1日から令和8年(2026年)12月31日までに買ったものです。
使うには条件があります。申告する本人が、その年に次のような健康のための取組を受けていることです。
- 保険者が行う健康診査(人間ドックなど)
- インフルエンザなどの予防接種
- 勤務先で受けた定期健康診断
- 特定健康診査(いわゆるメタボ健診)や特定保健指導
- 市区町村が行う乳がん検診・子宮がん検診などのがん検診
取組が必要なのは申告する本人だけで、家族の分まで求められることはありません。サロンの健康診断を受けていない方は、市区町村の検診を使う手もあります。
注意したいのは、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか選べない点です。両方を足すことはできません。
市販薬をたくさん買った年は、両方で計算して有利なほうを選んでください。対象の市販薬はレシートに印がつくことが多いので、捨てずに取っておきましょう。
今日からできる準備チェックリスト
医療費控除でいちばん多い失敗は、1年経ってから「レシートがない」と気づくことです。今日から次の順番で準備してください。
- 家族全員分の医療費のレシートを、1つの箱や封筒にまとめる
- 通院のたびに、日付・行き先・交通費をスマホのメモに残す
- 保険金や高額療養費、出産育児一時金を受け取ったら金額を控えておく
- 1月1日から12月31日までに「支払った」分で集計する
- 市販薬のレシートは、セルフメディケーション税制の印があるか確認する
- 申告のときに「医療費控除の明細書」を作って提出する
4番目は間違えやすいところです。12月に受診して翌年1月に支払った場合は、支払った年(翌年)の医療費になります。繁忙期に後払いにした分は、年をまたぐことがあります。
領収書そのものを申告書に添付する必要はありません。ただし、確定申告の期限から5年間は手元に保存し、求められたら提示できるようにしておきます。
加入している健康保険から届く「医療費通知」を使うと、明細書の記入を簡単にできます。e-Taxとマイナポータル連携を使えば、データを自動で取り込むこともできます。
いつ申告する? 使い忘れた年はどうする?
確定申告の期間は、原則としてその年の翌年2月16日から3月15日までです。2026年分であれば、2027年に申告します。
過去に医療費控除を使い忘れていても、あきらめる必要はありません。還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間できます。
ただし、まだ申告していない年と、すでに申告書を出した年とでは手続きが変わります。判断に迷うときは早めにご相談ください。
よくある質問
仕事が原因の手荒れです。皮膚科代を経費にできますか?
ご自身の治療費は、生活のための支出として必要経費にはなりません。経費ではなく、医療費控除として集計してください。なお、サロンで業務に使う消耗品の扱いは、これとは別に判断します。
家族の分もまとめて申告できますか?
自分と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費は、支払った方がまとめて申告できます。一緒に暮らしていなくても、仕送りなどで生活費を共にしていれば対象になることがあります。誰がまとめると有利かは、それぞれの所得によって変わります。
国民健康保険料は医療費控除に入れますか?
入りません。国民健康保険料や国民年金保険料は「社会保険料控除」という別の控除で、その年に支払った全額を所得から差し引けます。医療費控除の集計には混ぜないでください。
まとめ
医療費控除は、手荒れや腱鞘炎とつき合いながら働くネイリストにこそ知ってほしい制度です。
- 自分の治療費は経費ではなく、医療費控除で扱う
- 総所得金額等が200万円未満なら、基準は10万円ではなくその5パーセント
- 治療のためなら対象、美容のためなら対象外
- 市販薬が多い年はセルフメディケーション税制と比べる
- レシートは5年間保存、使い忘れた年も5年さかのぼれる
まずは今年の分のレシートを、1つの封筒に集めるところから始めてみてください。
参考にした公的サイト
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
- 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」
- 国税庁「No.1119 医療費控除に関する手続について」
- 国税庁「No.1131 セルフメディケーション税制と従来の医療費控除との選択適用」
- 国税庁「No.1133 健康の保持増進及び疾病の予防への取組を行っている場合」
- 国税庁「No.2030 還付申告」
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