生命保険料控除は「経費」ではなく「所得控除」です。2026年分(令和8年分)からは、23歳未満のお子さんなどを扶養している方の上限が広がりました。年末調整のないネイリストが取りこぼさないための手順をまとめます。
生命保険料控除は「経費」ではありません
まず、いちばん多い勘違いから整理します。毎月払っている生命保険料は、ネイルの仕事の「経費」にはなりません。
国税庁は必要経費について、売上を得るために直接かかった費用や、その年の業務上の費用と説明しています。そのうえで「家事上の経費」は必要経費にならないとしています。生命保険は自分や家族のための備えなので、家事上の支出という扱いです。
では意味がないのかというと、そうではありません。生命保険料は「所得控除」として、経費とは別のところで差し引けます。順番にすると、こうなります。
- 売上(施術代・指名料・物販など)から経費を引く → もうけ(所得)が出る
- そのもうけから所得控除を引く → 税金のかかる金額が決まる
- その金額に税率をかける → 所得税が決まる
生命保険料控除は2番目に登場します。ジェルやポリッシュ代、ネイルマシン、検定の受講料といった経費は1番目です。入る場所が違うだけで、税金が減る効果はどちらにもあります。経費に入れられるものはネイリストの経費一覧で確認してください。
なお、保険料をサロンの売上が入る事業用口座から引き落としていても、経費にはなりません。帳簿では「事業主貸」として、事業のお金を私用に使った記録にします。口座を分けている方ほど、ここを間違えやすいので気をつけてください。
2026年分の控除額は最大12万円。子育て中は計算表が変わります
生命保険料控除には3つの区分があります。
- 一般生命保険料控除(死亡保険や学資保険など)
- 介護医療保険料控除(医療保険やがん保険など)
- 個人年金保険料控除(税制適格の個人年金)
契約した時期によって計算表が2種類あります。2012年(平成24年)1月1日以後に契約したものが「新契約」、2011年(平成23年)12月31日以前が「旧契約」です。どちらに当たるかは、保険会社から届く控除証明書に書かれています。
| 新契約・年間の支払保険料等 | 控除額 |
|---|---|
| 20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
| 20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
| 40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
| 80,000円超 | 一律40,000円 |
旧契約は上限が少し高く、1区分あたり最高50,000円です。そして3区分を合計した控除額が120,000円を超える場合は、生命保険料控除額は120,000円になります。これが全体の上限です。
23歳未満の扶養親族がいる場合の特例
国税庁のタックスアンサーによると、令和8年分(2026年分)以降の申告では、23歳未満の扶養親族がいる方の「新契約の一般生命保険料」の計算表が次のように変わります。
| 年間の新生命保険料 | 控除額 |
|---|---|
| 30,000円以下 | 新生命保険料の全額 |
| 30,000円超60,000円以下 | 新生命保険料×1/2+15,000円 |
| 60,000円超120,000円以下 | 新生命保険料×1/4+30,000円 |
| 120,000円超 | 一律60,000円 |
一般の区分だけ、上限が40,000円から60,000円に広がるということです。ただし3区分を合計した上限120,000円は変わりません。介護医療や個人年金の上限も変わりません。「全部合わせて14万円になる」わけではない点に注意してください。
ここでいう扶養親族とは、その年の12月31日時点で、配偶者以外の親族で、生計を一にしていて、年間の合計所得金額が一定額以下で、事業専従者として給与を受けていない人のことです。合計所得金額の基準は、令和8年12月1日に施行され令和8年分から適用される金額として62万円以下とされています。年齢の下限はないので、小さなお子さんも要件を満たせば扶養親族にあたります。
実際にいくら税金が減るのか
控除額がそのまま返ってくるわけではありません。減るのは「控除額×税率」の分です。国税庁の速算表では、課税される所得金額が1,949,000円までの方の所得税率は5パーセントです。この場合、控除額が120,000円なら所得税はおよそ6,000円少なくなる計算になります(このほかに復興特別所得税の調整があります)。
金額としては大きくありません。それでも、証明書を1枚出して数字を書き写すだけで済む話です。ジェル1本分と考えれば、やらない理由はないはずです。
なお住民税にも生命保険料控除がありますが、控除される金額は所得税とは異なります。金額はお住まいの市区町村のホームページでご確認ください。
ネイリストが取りこぼしやすい4つの場面
1. 年末調整がないので、書かなければゼロのまま
サロンに勤めていた頃は、秋に用紙が配られて、保険の証明書を貼って提出していたはずです。あれが年末調整です。業務委託・シェアサロン・自宅サロン・出張ネイルで働く個人事業主には、この仕組みがありません。
つまり、誰も代わりに計算してくれません。確定申告書の生命保険料控除の欄に自分で書いて、はじめて反映されます。保険料を10年払い続けていても、書かなければ控除額はゼロです。
2. 源泉徴収されていても、自動では引かれない
サロンからの報酬明細に源泉徴収税額が書かれていることがあります。これは前払いした所得税です。生命保険料控除は、この前払い分の計算には入っていません。確定申告で控除を申告すると、払いすぎた分が戻ることがあります。
3. 親や配偶者が払っている保険は、自分の控除にならない
控除を受けられるのは、生命保険料などを支払った方です。契約が自分名義でも、保険料を実際に出しているのが親なら、自分の申告では使えません。実家暮らしのネイリストによくあるケースです。
また対象になる契約は、保険金などの受取人のすべてが、保険料を払う本人か、その配偶者、その他の親族であるものに限られます。受取人が友人などの場合は対象外です。
4. そもそも対象にならない保険がある
国税庁は、次のようなものは生命保険料控除の対象にならないとしています。
- 保険期間が5年未満の貯蓄保険や貯蓄共済
- 外国保険会社と国外で結んだ契約
- 信用保険契約や傷害保険契約
- 財形貯蓄契約(住宅貯蓄・年金貯蓄を含む)
施術中のけがや賠償に備える傷害保険は、この控除の対象ではありません。対象かどうかは、控除証明書が届くかどうかでおおむね判断できます。
もうひとつ。生命保険料控除はもうけから引くものなので、赤字の年や、もともと税金がかからない年は効果が出ません。開業して間もない時期は、そういうこともあります。
秋から申告までのチェックリスト
やることは多くありません。順番に進めてください。
| やること | ポイント |
|---|---|
| 控除証明書を保管する | 保険会社から届いたら、レシートとは別の場所にまとめる |
| 新契約か旧契約かを見る | 証明書に区分が書かれている。複数あれば1枚ずつ確認 |
| 区分ごとに合計する | 一般・介護医療・個人年金の3つに分けて年間の保険料を合計 |
| 計算表に当てはめる | 区分ごとに計算し、合計が120,000円を超えたら120,000円 |
| 申告書に記入して提出 | 生命保険料控除の欄に記入し、証明書を添付または提示 |
証明書の添付・提示について、国税庁は2つの例外を挙げています。旧契約で年間の保険料が9,000円以下のものと、年末調整ですでに控除を受けたものです。それ以外は必要になるので、届いた証明書は捨てないでください。
マイナンバーカードを使ってe-Taxで提出する場合は、マイナポータル連携で控除証明書などのデータをまとめて取得し、申告書に自動で入力できます。利用にはマイナンバーカードと、読み取りに対応したスマートフォンなどが必要です。また、保険会社がマイナポータル連携に対応している必要があります。対応している発行主体は国税庁のサイトで一覧が公開されています。
提出の時期は、原則としてその年の翌年2月16日から3月15日までです。2026年分(令和8年分)であれば、2027年2月16日から3月15日までになります。納付の期限も原則として3月15日です。
なお、国民年金や国民健康保険は「社会保険料控除」、iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」と、生命保険料控除とは別の欄です。どれか1つしか使えないということはありません。該当するものはすべて書いてください。
よくある質問
保険料をサロンの売上が入る口座から払っています。経費にできますか。
できません。どの口座から払っても、生命保険料は事業の必要経費ではなく所得控除です。帳簿では「事業主貸」として処理し、確定申告書の生命保険料控除の欄に書きます。経費の行に混ぜてしまうと、もうけの金額そのものが違ってきます。
控除証明書を失くしてしまいました。どうすればいいですか。
契約している保険会社に再発行を依頼してください。会社によっては、会員ページから電子データでの受け取りやダウンロードができます。申告の直前だと間に合わないことがあるので、見当たらないと気づいた時点で連絡するのが安全です。
子どもがいれば、誰でも上限が6万円になりますか。
広がるのは、23歳未満の扶養親族がいる方の「新契約の一般生命保険料」の区分だけです。旧契約だけの方や、医療保険・個人年金しか契約していない方は対象になりません。また3区分を合計した上限120,000円は変わりません。ご自身の証明書の区分をまず確認してください。
制度の内容や運営者については運営者情報もあわせてご覧ください。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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