成人式や年末で予約が埋まった日に、他のネイリストさんに入ってもらった。その日に払ったお金は「外注費」として経費にできます。そして多くのネイリストの場合、税金を天引きする手続きは要りません。
ひとりでサロンを回していると、どうしても手が足りない日が出てきます。ブライダルの出張で2人必要になったとき。体調をくずして代わりに入ってもらったとき。その場で現金を渡したけれど、帳簿にどう書けばいいのか分からない。そんな声をよくいただきます。
この記事では、ヘルプに払ったお金の扱いを、国税庁の情報にそって整理します。読み終わるころには、次に人にお願いしたとき何を残しておけばいいかが分かります。
ヘルプに払ったお金は「外注費」として経費になります
結論から書きます。仕事のために他のネイリストさんにお願いして払ったお金は、経費になります。
国税庁は、経費になるものを大きく2つに分けて説明しています。ひとつは「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」。もうひとつは「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」です。
むずかしい言い回しですが、意味はシンプルです。売上をあげるために実際に使ったお金は経費になる、ということです。ヘルプ代はまさにこれに当たります。
たとえば、こんな場面です。
- 1月の成人式シーズン、1日だけ知り合いのネイリストに入ってもらった
- 結婚式の出張ネイルで、新婦とご家族の分を2人で担当した
- インフルエンザで動けず、予約が入っていたお客様を代わりに施術してもらった
- 撮影の仕事で、モデルさん全員の爪を仕上げるために応援を呼んだ
帳簿につけるときの名前(勘定科目)は「外注工賃」または「外注費」を使うのが一般的です。会計ソフトにはたいてい最初から入っています。ジェル代やライト代と同じように、ネイリストの経費のひとつとして考えてください。経費になるものの全体像はネイリストの経費一覧にまとめています。
「外注費」と「給与」はまったく別のあつかいになります
ここがこの記事のいちばん大事なところです。同じ「人に払ったお金」でも、外注費なのか給与なのかで、あなたがやるべき手続きが大きく変わります。
外注費は、独立した事業者どうしの取引です。お願いした相手は自分で確定申告をします。あなたは払った金額を経費にするだけです。
一方、給与は「雇っている」ということです。この場合、あなたは次のような義務を負います。
- 給与から所得税を天引きして、国に納める(源泉徴収)
- 「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を税務署に出す。期限は開設などの事実があった日から1か月以内です
- 毎月、天引きした所得税を納める。給与を払う人が常時10人未満なら「納期の特例」を申請でき、1月から6月分は7月10日、7月から12月分は翌年1月20日にまとめて納められます
- 年末調整や源泉徴収票の作成も必要になります
国税庁が示している見分け方
では、どちらなのかはどう決まるのでしょうか。「外注費と呼んだから外注費」ではありません。実態で判断されます。
国税庁の消費税法基本通達1-1-1は、個人事業者と給与をもらう人の区分について、はっきりしないときは次の4つを総合的に見て判定するとしています。
| 国税庁が示す判定の観点 | ネイリストに置きかえると |
|---|---|
| その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか | その人が来られない日に、別のネイリストを代わりに立てても構わないか |
| 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか | 施術のやり方や手順を、あなたが細かく指示しているか |
| 完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか | お客様が直前にキャンセルして売上がゼロでも、その人に支払う約束か |
| 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか | ジェル、筆、ライトなどをあなたが全部用意しているか |
国税庁は、大工・左官・とび職などについても同じ考え方の通達を出しています。そこでは上の4つに加えて「報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束を受けるかどうか」という観点も挙げられています。時給で計算して、出勤時間を決めて、道具も全部こちらが貸している。この状態は、名前が外注費でも給与に近い働き方だと見られやすくなります。
ただし、この通達はもともと建設の仕事についてのものです。ネイリストにそのまま当てはまると決まっているわけではありません。判断のものさしとして参考にする、という受け止め方をしてください。
大切なのは、実態に合わせて処理することです。呼び名を変えて税金を減らそうとするのではなく、実際にどういう関係でお願いしているのかを整理しておきましょう。
ヘルプ代から所得税を引く必要はある?
「報酬を払うときは10.21%引くんですよね」と聞かれることがあります。サロンから業務委託で報酬をもらうとき、明細に源泉徴収が載っているのを見たことがある方も多いと思います。
ですが、ネイリストが他のネイリストにヘルプ代を払う場面では、原則として天引きは必要ありません。理由は2つあります。
理由1:ネイルの施術代は、天引きの対象に入っていない
源泉徴収が必要な報酬・料金は、法律で決められたものだけです。国税庁は次のものを挙げています。
- 原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士など特定の資格を持つ人への報酬
- 診療報酬
- プロ野球選手、モデルや外交員などへの報酬
- 映画・演劇その他芸能、テレビ出演などの報酬
- ホテル、旅館などの宴会で接待業務に従事する人への報酬
- 役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
ネイルの施術をお願いして払う代金は、この一覧のどれにも当てはまりません。デザイン料や原稿料とは別のものです。
理由2:人を雇っていない個人事業主は、そもそも天引きする立場ではない
もうひとつの理由が、より多くのネイリストに当てはまります。国税庁は、源泉徴収義務者についてこう説明しています。
給与所得について源泉徴収義務を有する個人以外の個人が支払う弁護士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません
言いかえると、誰にも給与を払っていない個人事業主は、報酬を払うときに天引きをする立場にならない、ということです。ひとりでサロンをやっている方、スタッフを雇っていない方は、ここに当てはまります。
反対に、すでにアシスタントを雇って給与を払っている場合は、話が変わってきます。その場合でも、理由1のとおりネイルの施術代そのものは天引きの対象に入っていませんが、支払いの中身によっては確認が必要です。判断に迷ったら、税務署か税理士に確認してください。
受け取った側はどうすればいい?
「引かれていないけど大丈夫?」と相手に聞かれることがあります。大丈夫です。天引きは、税金の前払いをまとめて行う仕組みにすぎません。引かれていない場合は、受け取った人が自分の売上としてそのまま確定申告します。
お互いのために、金額と日付が分かる記録を残しておきましょう。あとで「いくらもらったか分からない」となるのが、いちばん困ります。
家族に手伝ってもらったときは、まったく別のルールです
自宅サロンで、お母さんに受付をお願いした。夫に送迎を頼んだ。この場合は、これまでの話がそのまま使えません。
国税庁は、生計を一にしている配偶者やその他の親族に支払う給与について、こう書いています。
これらの給与は原則として必要経費にはなりませんが、次のような特別の取扱いが認められています
「生計を一にする」とは、ざっくり言えば同じお財布で暮らしている家族という意味です。同居している家族は、多くの場合これに当たります。
では特別な取扱いとは何か。2つあります。
青色申告をしている場合:青色事業専従者給与
届出を出したうえで条件を満たせば、家族に払った給与を経費にできます。国税庁が示す要件は次のとおりです。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に出していること
- 届出に書いた方法と金額の範囲内で実際に支払っていること
- 労務の対価として相当と認められる金額であること
届出書の提出期限は、経費にしようとする年の3月15日までです。その年の1月16日以後に新しく事業を始めた場合や、新たに専従者がいることになった場合は、その日から2か月以内となります。
「6か月を超える期間、専ら従事」という条件に注意してください。忙しい月だけ手伝ってもらう、という使い方はこの制度に乗りません。
白色申告をしている場合:事業専従者控除
白色申告の場合、家族に払った給与そのものは経費にできませんが、専ら事業に従事しているなら控除が使えます。金額は、配偶者は最高86万円、15歳以上のその他の親族は最高50万円です。
ただし上限があります。この控除をする前の事業所得等の金額を、専従者の数に1を足した数で割った金額と比べて、低いほうが限度になります。
そしてもうひとつ大事な注意点です。国税庁は「青色申告者の事業専従者として給与の支払を受ける人または白色申告者の事業専従者である人は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません」としています。配偶者控除や扶養控除との関係が変わるので、家族全体で見て損得を確かめてから決めてください。
払うときにやっておくこと:チェックリスト
ヘルプ代でいちばん多いトラブルは、証拠が何も残っていないことです。現金でその場で渡して、お礼を言って終わり。あとで帳簿をつけるときに金額があやふやになります。
次の5つを押さえておけば十分です。
- できれば銀行振込にする。通帳やアプリの履歴がそのまま記録になります。現金より確実です
- 現金で払うなら受取書をもらう。日付・金額・相手のお名前・「ネイル施術補助として」など内容が書いてあれば、手書きのメモで構いません
- 帳簿に「誰に・いつ・いくら・何を頼んで」を書く。会計ソフトの摘要欄に相手のお名前と内容を入れておきましょう
- お願いするときの条件をメモしておく。1件いくらなのか、道具はどちらが用意するのか、キャンセルのときはどうするのか。LINEのやりとりが残っていればそれでも役に立ちます
- 家族に頼んだ場合は上のルールを思い出す。同居の家族へのお礼は、そのままでは経費になりません
なお、あなたが消費税の課税事業者になっている場合は、外注先がインボイスの登録をしているかどうかで消費税の計算が変わることがあります。売上がまだ小さく免税事業者のうちは気にしなくて構いません。該当しそうな方は、国税庁のインボイス制度のページで最新の取扱いを確認してください。
よくある質問
現金で払って、領収書をもらい忘れました。経費にできませんか?
すぐにあきらめなくて大丈夫です。実際に仕事のために払ったお金であれば経費になります。まずは帳簿に、日付・相手のお名前・金額・お願いした内容をできるだけ具体的に記録してください。可能なら、相手に受取書を書いてもらうか、LINEなどで「先日の◯月◯日の分、たしかに受け取りました」と残してもらうと安心です。次回からは振込にしておくと、この悩みがなくなります。
ヘルプ代はいくらまで経費にできますか?上限はありますか?
外注費そのものに金額の上限はありません。実際に仕事のために払った金額が経費になります。ただし、売上に対してあまりに不自然な金額だと、中身を聞かれることがあります。何をお願いしていくら払ったのかを説明できるようにしておきましょう。生計を一にする家族への支払いは別のルールになり、青色事業専従者給与や事業専従者控除の範囲で考えることになります。
ヘルプに入ってくれた人から「確定申告はどうすれば」と聞かれました
受け取った側は、そのお金を自分の事業の売上として記録し、年間の所得に応じて確定申告をします。あなたが天引きをしていない場合も、受け取った人の申告で精算されるので問題ありません。親切にするなら、その年に払った合計額と支払日が分かるメモを渡してあげると、相手の帳簿づけがぐっと楽になります。
制度の中身は毎年少しずつ変わります。この記事がどんな立場の人間によって書かれているかは運営者情報でご確認いただけます。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
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